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「人が死なない世界」であなたはどう生きますか?【DEAR HUMANITY】

5/19(日) 11:41配信

FINDERS

(この記事は2018年9月28日にFINDERSにて掲載されたものです)

人生100年時代という言葉が世の中に出てきてしばらく経ちました。高齢化が進む中でどう自分らしく生きるかというテーマを一人一人が考える時代ではありますが、同時にどう終わりを迎えるかという「終活」も一つのキーワードとして盛り上がりを見せています。

今回は終活コンサルを訪れた家族のストーリーから、生と死の考え方の変化を見ていきましょう。

70歳の誕生日を前に、娘のサエに連れてこられた終活プラザ。

ここはなんだ...年寄りへの嫌がらせか。俺はまだ69だぞ。

まず店の名前が「はっぴぃえんどぅ」ってふざけてる所が気に食わない。

相続や遺言はともかくとして、ここ最近のキラキラ終活ブームにはいささか疑問がある。

ただでさえ寿命が伸びる新薬が開発されただのと言われている中、こんなに元気なのになぜ死ぬ時のことなんて考えなくてはいけないのだ。

娘と店に入ると、妻の姿が見えた。

「ほら父さん、ママだよ!ママ!よくできてる。元気だった?」

「サエ、久しぶりね。寂しかったわよね…でも楽しくやってるから大丈夫よ」

うまくできてるにもほどがある。声もそっくりそのままだ。

「パパも何か話してあげてよ…」

言葉なんて出てくるわけがない。妻は6年前に死んだんだ。

しばらく黙った後に、妻はこう続けた。

「あなた、サエが事前に私の映像やマインドデータをここに送ってくれたおかげで、こうして会えた。会いたかったわ。死は今や怖れの対象じゃない。死んでもこうして皆と会うことができるんだもの」

妻は続ける。

「死ぬ前に、死んだ後の人生をどう設計するか? 生きている今、考えることが必要なのよ。シミュレーションしてみましょうよ」

軽く返事をしたが、妻の顔を直視することができない。

笑っているのか、悲しんでいるのか。知りたくないからだ。

「いらっしゃいませ。突然失礼いたしました。娘さんのサプライズはうまくいきましたか?」

複雑な気分のまま、奥から出てきた男に別部屋を案内される。

その薄暗い部屋には変わった形のイスがあり、座って映像を観ることになった。

画面が暗くなった途端、開ける視界。

サエに似ている子どもが、私の顔を覗き込んでいる。

「おはようございます!」

そうすると、横から妻の声が聞こえた。

「おはよう、今日もいい天気ね。サエおばぁちゃんは今日はお出かけしてるのかしら?私とタカシおおじいちゃんも、今日はお出かけをするから楽しみなのよ」

リビングルームに置かれたクリスタルに映る妻の顔。どうやらホログラム型の遺影らしい。

遺影を見つめているといつの間にか、場面は宇宙へ。私は妻と手をつないでいた。いつか行ってみたいと話していた夢の宇宙旅行か。

「結婚記念日に行った、西表島の星空とどっちが綺麗かしらね?」

地球を見下ろしながら妻が言った。

服装が西表島で着ていたものに変わった事に私が気付かずにいると、妻は少し不機嫌になったが、写真を見せながら私たち家族の今を話してくれた。娘サエが80歳になったこと。孫やひ孫に囲まれた生活のことを話してくれた。いや、“今”ではなく、これからのことか。

私がどんな人生を送ったか、面白おかしく紹介してくれた。一番笑えたのは、私が趣味で作っている将棋盤がネットで話題になり売れに売れて、家族の一大事になったことだ。

私はサエやひ孫ともっと話をしたいから家に戻ろうと妻に提案し、空っぽの遺影の中に入り込んだ。

「ただいま。戻ったよ!」

その瞬間、目の前が真っ暗になって静寂が続いた。私は現実に戻ったのだ。

冷静になり、椅子から起き上がることをやめてこう言った。

「まだ、終わりたくないです」

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最終更新:5/19(日) 11:41
FINDERS

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