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『シド・ミード展 PROGRESSIONS TYO 2019』が見せつける“未来を見る”能力

5/19(日) 12:10配信

otocoto

ミードというアーティストの最大の真価であり才能は、この“未来を見る”能力だ。「ビジュアル・フューチャリスト」とも呼ばれる卓越したイマジネーションの本質もそこにある。時代の先を想像し反映させることはクリエイターのみならずエンジニアリングにおいても多くの人が意識し続けていることだが、ミードのそれは抜きんでている。最先端の科学技術に詳しく知識のある若いデザイナーは他にもいるだろう。先鋭的すぎるデザインだけであるなら、他にも描ける人がいるかもしれない。だがミードの場合は、最先端や研究中の技術に詳しいというよりも「そこで使われていることの何がどのように残り、何は残らないのか。それが未来に応用され、社会に普及すると考えるのか」への発想の取捨選択の絶妙さがリアリスティックな未来像を創造している。そして未来“社会”である以上、そこには人が暮らしている。メカニックや建造物に目が行きがちだが、そのイラストで人間がどのように描かれているのかも、その画のテーマを読み解く大きな要素になる。

作品とその発表年を見ていくと、ミード自身が70年代に描いた未来カーとそれがある社会が「ようやく10数年後くらいに迫ってきているかな」という印象だ。このあたりがデザイナーではなくビジュアリストであり、作品が未来想像図ではなく未来予言図だとすら評される部分だろう。

2012年に『ブレードランナー』公開30年の節目にWOWOWで制作・放送されたシド・ミードのドキュメンタリー『ブレードランナーの世界を創った男 シド・ミードが描く2042年』の中で、ミードは自身の創造する未来感について以下のように語っていた。
「未来はリハーサルできるんだよ」
そのリハーサルがあれらのデザインやイラストへの発想と思考であり、それを描いた作品はそれを他者に伝えるための画で記された言語だ。ちなみにこの番組の企画でミードが描いた30年後(2042年)の都市イメージ『WOW フューチャー・シティ 2042』も会場では展示されている。

アニメ関連画では、『YAMATO2520』のデザインもOVA発売当時は物議を醸すものであったが、近年のリメイク作『宇宙戦艦ヤマト2199』『2022』を見た直後の今の目線で「アレがある世界の300年後か」と見ると、自分でも驚くほどすんなりと納得がいくデザインとして感じられ、そのことに驚いた。それは、僕があのデザインがわかるまでに25年もかかったということなのかもしれない。

とりわけ注目となるのは『∀ガンダム』で、ここで上映されている3分ほどの「あのデザインが決定していくまで」の短編映像も見所の1つだ。放送時に大きな話題となった「ヒゲのあるガンダム」のデザインはどのような変遷で確立していったのか。 その過程は名著『MEAD GUNDAM』でも詳細に記されているが、この映像ではそれとは異なるアプローチで変遷がわかりやすく解説されている。制作側からの演出を想定したオーダー。1stガンダムからガンダムXまでのデザインを模写していき“ガンダム的なデザインの記号”を理解していく工程。それがどのようになっていき、ああなったのか。映像ゆえに会場でしか見ることができない展示だ。

また、会場のみという点では『shoulder of orion』とタイトルが付けられた宇宙船の画も重要な展示となる。『ブレードランナー』本編クライマックスでレプリカントのロイが語るセリフからインスパイアされて描かれたもので、海外での巡回個展のために描かれた作品。これだけはミード本人の希望で展示会の図録にも未収録となっている。

日本では35年ぶりとなる原画展だが、実行委員会側の発言によれば「シド・ミードの原画を日本で生で見られるのはおそらくこれが最後」とのことだ。 東京のみでの開催ゆえに難しい人も多いとは思うが、せっかくの会期延長であるので東京近隣で都合がつく人はこの機を逃さないようにした方がいいだろう。会場を出たときに想像する「30年後の未来」はそれまでとちょっと違うものになっているかもしれない。

なお、会期延長にあわせ、連休明け早々に完売となって涙をのむ人が続出であった図録も「新装版」として再販決定が発表された。こちらは会期終了後にオープンする通販サイトでの販売予定とのことだ。

文 / 岡野勇(オタク放送作家)

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最終更新:5/19(日) 12:10
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