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日本の建物が危ない!?構造責任者でも間違えている耐震の考え方

5/19(日) 8:00配信

幻冬舎ゴールドオンライン

今回は、誤った理解がされている耐震計算について、ある自治体の事例をもとに見ていきます。※本連載は、建築耐震工学、地震工学、地域防災を専門とする名古屋大学教授・福和伸夫氏の著書『必ずくる震災で日本を終わらせないために。』(時事通信出版局)から一部を抜粋し、大震災の危険性はどれほど高まっているのか、さらに対策はどれほど進んでいるのかを紹介しながら、防災・減災に向けた早急な対応の必要性を説いていきます。

公共事業は予算執行が最優先!?

■青ざめる市役所の担当者

*この章では建築構造の専門的な部分にも立ち入ります。こういうことは一般の人は専門家に任せていますが、専門家も必ずしも数値や数式を十分に理解して使っているわけではありません。縦割りの弊害で、誰かがつくった式や数字を、あまり考えずに使っていることがあります。大事なことですので、そのあたりを分かりやすく説明いたします。

ある日、とある市役所の担当者が、建築事務所の設計者と一緒に私の研究室へやって来ました。「市が防災センターを建設するので、防災展示について相談に乗ってほしい」という話です。しかし、図面などを見させてもらうと、展示よりも建物のつくりが気になってしまいました。

「防災展示は手伝うけれど、この建物の耐震はどうなっているんですか?」と私が聞くと、設計者は「免震です」と答えました。すかさず私は「免震だったら僕も得意なんだけど、どんな免震ですか?」と聞きます。

「ごめんなさい。構造設計者じゃないのでよく分かりません」

「じゃ、建物の図面を見せてくれませんか?」

そこで、設計図を見させてもらいます。すると、壁一面がスケスケのガラス。本当に大丈夫?

「免震だからダイジョーブです」と設計者は言い張ります。

「設計で考えた揺れは? 普通の建物より1.25倍は強い? 1.5倍?」「こんなにガラス張りだったら、台風のときに割れちゃわない? 大丈夫?」

私が畳み掛けると設計者は押し黙ってしまい、市役所の担当者も隣でビクビクしていました。十分な検討をしているようにはとても見えなかったので、私が「なぜそんなに焦るの?」と聞くと、市の担当は「市長の任期のうちに、これをつくらなければいけないんです。予算も決まっちゃっていて……」と答えました。今までに何度も経験したことがあるやりとりです。

■地震の揺れを分かってない構造設計者

その後、構造設計者が来てくれました。やり取りをしてみると、さらに情けない話に……。

「この場所で過去に起きた地震は?」

「知りません」

「東南海地震って知っていますか?」

「知りません」

「三河地震は?」

「知りません」

「そのときのここの揺れは?」

「知りません」

「南海トラフ巨大地震の発生確率は?」

「知りません」

アチャー……。

私はあきれながらも南海トラフ地震のことや、中央防災会議が予測した揺れなどについて丁寧に説明していくと、部長は「我々は価格提案の入札で取りましたから設計コストが……」といった反応。

* 某案件を落札した設計会社は免震設計の経験がないのに、免震設計を提案しました。また、被害予測をしたことがないコンサルがある自治体の被害予測を受注しました。いずれも実績づくりです。

* 入札で実力がない業者が落札するのを防ぐために性能発注というやり方もあります。価格だけでなく性能も見るのです。この場合、自治体側に性能を見抜く力がないといけません。発注者側の技量が必要です。

「設計コストが安ければ何でもいいわけ?」

「しょうがないんです」

「市にはどういう説明をしたの?」

「免震は、普通は揺すって安全性を検証しますが、速攻でやる方法もあり、それは安くて早いですと説明しました」

「揺すって」とはこの場合、地震を受けた建物の揺れを時々刻々と再現したり、地盤の揺れやすさを考慮したりする、高度な構造計算を意味しています。その分、手間もお金もかかります。

それに対して「速攻で」とは、もっと簡易な計算による方法のこと。国の認める計算式に数値を当てはめて基準をクリアさせるので、確かに法律は守っています。しかし、それでは地域に応じた設計はできません。特にこの案件のように、いざというときに使う防災拠点のような重要施設の設計ではふさわしくないと思います。

どういうことか、かなり専門的になりますが、できるだけやさしくお話しします。

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最終更新:5/19(日) 8:00
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