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日本の建物が危ない!?構造責任者でも間違えている耐震の考え方

5/19(日) 8:00配信

幻冬舎ゴールドオンライン

建物の耐震性…計算式が正しく理解されていない

■数字の意味を勘違い

建物は地震でユラユラと、主に左右に揺れます。その水平方向に揺れることで建物に生じる力を建築用語で「地震層せん断力」で定義します。せん断は「剪断」。「剪」には「はさみで切りそろえる」という意味があります。「植木の剪せん定てい」と言いますね。剪断力には「物をはさみで切ろうとする力」「物体にずれを起こす力」の意味があります。

一般の構造物は、常に自分の重さを支える必要があるので縦揺れには強く、横揺れに弱い。そして、地震では横揺れが多いので、耐震設計は主に横揺れに対してチェックします。地面が横揺れすると、動くまいとする建物は「慣性力」という力を受けます。車を急停止すると前のめりになりますが、その力が慣性力です。バスが急停止したときに、痩せた人より太めの人の方が転びやすいのと同様、慣性力は質量に比例します。重い建物ほど、大きな力を受けるわけです。また、ものが急に止まったり、勢いよく動いたりするほど慣性力も大きくなります。こうした速度の変化率を「加速度」と言います。つまり、慣性力は「質量」×「加速度」で計算するのです。

地震層せん断力は、建物に働く慣性力(地震力と呼びます)によって建物に生じた力です。実際は複雑な計算で出てくる数字なのですが、構造計算の「一次設計」ではおおむね建物の重さに「0.2」をかけた力になります。つまり、建物の重さの0.2倍の力ということです。それだけの力に最低限、損傷しない建物をつくりなさい、という耐震の基準。言い換えれば、国の耐震基準ギリギリの建物をつくると、建物の重さの0.2倍くらいの地震力で、建物が損傷し始めることを意味します。

* 新耐震設計法では耐震性の検討を一次設計と二次設計の2段階で行います。一次設計では、中程度以下の地震に対して許容応力度計算により損傷を防ぐ、二次設計では、大地震に対して、保有水平耐力計算に基づく安全性確認で、損傷は生じても倒壊などを防ぎ、人命を保護する、とされています。要約すると、一次設計は比較的よく発生する中小の地震の揺れには無損傷であることを確認し、二次設計はめったに発生しない大きな地震の揺れに対して、建物は損傷しても人命は守ることを確認する、ということです。

なぜ「0.2」なのかは下記枠囲みの箇所をご覧ください。耐震基準では、「標準せん断力係数」、または「ベースシア係数」と呼ばれます。ベース(base)は基礎、シア(shear)はせん断力のこと。1階の床位置で負担する地震層せん断力を、建物の総重量で割った値とも説明されます。このベースシア係数の意味を誤解している設計者が多くて、困ったものなのです。

下記枠囲みの説明のように、ベースシア係数「0.2」というのは、「平均的に建物が200ガルで揺れることを想定して設計しなさい」ということです。「ガル」という単位は聞いたことがあるかと思いますが、ガリレオ・ガリレイにちなんだ名称で、木からリンゴが落ちるときにもイメージできる加速度の単位。地震の場合は水平方向の加速度を表します。では、建物は「200ガルで揺れる地震」に耐えられればいいのでしょうか? 先ほどの構造設計者に聞いてみます。

* 建物に働く慣性力(地震力)は「質量×加速度」です。質量は「重さ÷重力加速度」です。「重力加速度」は地球の重力が地上の物体に及ぼす加速度なので、地震力は、

質量(重さ÷重力加速度)×加速度

「重力加速度」は約1000ガルですから(重力加速度は980ガル)、

質量(重さ÷1000)×加速度

建物の平均的な揺れを200ガルと想定すると、

質量(重さ÷1000)×200=重さ×0.2

となります。

「建物の安全性の計算はベースシアでやっていますね。じゃあ、一次設計の地盤の揺れは、どの程度で設計しているの?」

「200ガルです」

いえいえ、違うのです。200ガルは建物の構造計算で想定した「建物全体の平均的な揺れ」です。「地面の揺れ」ではなくて「建物の揺れ」。この二つは違います。また、建物の揺れとして200ガルを想定して建てた建物でも、固い建物と柔らかい建物があります。地面にへばりついた要塞のようなビルは固く、コンニャクを立てたようなビルは柔らかい。

地面の揺れが200ガルだったら固いビルは200ガルしか揺れませんが、柔らかいビルは、もっともっと揺れます。また、先ほどから「ビル全体の平均的な揺れ」と言っていますが「平均的」という点も大事です。建物平均の揺れが200ガルなら、建物の上の方は300ガルくらい、下の階は100ガルくらいと思わないといけません。

* 設計するときに「これを使いなさい」という数式があります。数字を入力すると構造計算ができるようになっていますが、数式や数字の意味や背景を知らない設計者が多いのが実状です。

この設計者たちは、200ガルが地面の揺れだと勘違いしていました。だからとってもよく揺れる建物を、軟らかい地盤の上につくっても平気だったんです。こうして一つひとつ問い詰めていくと、彼らもだんだんとヤバさを自覚していきます。隣で聞いている役所の人たちの顔が、青ざめていきます。

「それでも揺すらずにやりますか?」

「工期がありますから」

「今のままで出しといて、計算だけやって確認すればよいじゃないですか。それで、具合が悪かったら設計変更したらどうですか?」

「お金がかかりますから」

「勉強代だと思えばいいんじゃない?」

「とりあえず帰って考えます……」

あらあら。そのまま帰ってしまいました。数式や数字の背景を知らないで設計をしていると、こうなってしまいます。まれに、こんな話に出くわします。

* ここで紹介した、「とある市の防災センター」は、結局、私の意見も取り入れてくれ、当初よりガラスが少ない頑丈な設計になりました。

福和 伸夫

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最終更新:5/19(日) 8:00
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