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財政に関する議論が「財務省のご機嫌ひとつ」で変わる、恐ろしい現実

5/19(日) 11:00配信

現代ビジネス

眉唾モノの議論

 いま、米国経済ではMMT(現代貨幣理論)をめぐる議論が過熱している。

 MMTは、「財政赤字はまったく気にする必要がない」という主張を取るもので、ニューヨーク州立大教授のステファニー・ケルトン氏らが提唱しているものだ。

 日本でもこの突飛な貨幣理論が波紋を呼んでいるが、異例の対応を取っているのは財務省だ。4月17日、「財政規律の軽視につながる」として、MMTに反対するデータを大量に集め、財政制度等審議会の分科会に提出したのだ。

 財政審は次年度の予算へ向けた議論をスタートする場で、財務省と考えが正反対のMMTにクギを刺したいのだろう。

 冷静に考えると、この理論はかなりの眉唾モノだ。「財政赤字はまったく気にする必要がない」という主張は、「理論」と名前はついているが数量的な裏付けがあるわけではない。

 そのため、米国では政治的に注目されるものの、学会からはまったく相手にされていない。これを良しとした財務省は、欧米の著名なエコノミスト17人にのぼるMMTへの批判を財政審の資料に掲載している。

 金融緩和と積極財政を促す理論なので、MMTはリフレ論やFTPL(物価水準の財政理論)と近しいように見えるかもしれない。だが、先ほども述べた通りMMTは基礎的理論がしっかりしているわけではない。

 リフレ論やFTPLを支える基礎的理論は、貨幣と物価の関係を示す「貨幣数量説」や、中央銀行と政府の財政を一体のものとして捉える「統合政府論」、物価に一定の制約を設ける「インフレ目標」といったものがある。そのため、支持するかどうかは別として、リフレ論やFTPLの理論の基盤を全否定するエコノミストは世界を見渡してもいない。

 だからこそ、「財政再建至上主義」の財務省は、リフレ論やFTPLに対して有効な反論ができずにいた。そのようななかでMMTが話題になると、財務省はリフレ論・FTPLも同様に財政再建批判をしていることに気づいた。

 MMTは世界のエコノミストから集中砲火を浴びている。財務省はこれに便乗して、MMTだけでなく財政再建反対派をまとめて叩くチャンスと考えて、異例の行動に出たのだ。

 異例の行動と言っても、財務省は欧米のエコノミストがMMTを批判している事実を紹介しただけだ。一方、リフレ論・FTPLについては、欧米での大きな批判はないので、欧米のエコノミストを引用できず、控えめな筆で財務省の懸念を勝手に述べているだけにすぎない。

 これをメディアが鵜呑みにすると、MMTもリフレ論・FTPLも同じように問題ある理論として扱ってしまう。日本のメディアには本格的な経済理論を理解している人間が少なく、財政再建を訴えるうえで都合の良い存在だ。

 もはや日本では、財務省の意向に沿わない理論は社会的に受け入れられない時代になってしまった。まともなリフレ論・FTPLも、デタラメなMMTとともに、財務省によって葬り去られるとしたら恐ろしい話だ。平成を苦しめた財務省主導の緊縮財政は、始まったばかりの令和の時代でも威力をふるうのだろうか。

 『週刊現代』2019年5月25日号より

ドクターZ

最終更新:5/19(日) 11:00
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