ここから本文です

「小出監督」に一番愛された女性ランナーは誰か

5/19(日) 5:57配信

デイリー新潮

 ヒゲの監督の傍らには共に泣き、笑った教え子たちの姿があった。4月24日に死去した女子マラソン界の名伯楽・小出義雄監督(享年80)の葬儀には、往年の女子ランナーたちが駆け付けた。彼女たちは遺影に向かってこう問いかけていたかもしれない。監督、誰を一番愛していたの――。

【画像】世界レベルの愛弟子たち

 答えのひとつは、告別式会場の一角にひっそりと飾られていた。1箱の古ぼけたショートホープ。小出監督が初めて育てた五輪メダリスト・有森裕子(52)との思い出の品である。

「バルセロナ五輪で銀メダルを獲った時のものですね。監督はヘビースモーカーでしたが、本番の数カ月前から願掛けで禁煙を始めました。“選手にだけ練習を強いて、自分が何もしないわけにはいかない”という監督なりの思いやりでした」

 とは有森本人の弁。

「私もそれに応えようと、本番ではユニフォームにショートホープを縫い付けて走った。そして、ゴール後、監督に“思う存分吸ってください”と手渡したんです。汗でぐしゃぐしゃになって、とても吸えたものじゃなかったんですけどね」

 小出監督は有森を「センセー」と呼んでいたという。

「監督は意見されることが嫌いでしたが、私は思ったことを口にするタイプ。監督は敢えて“センセー”とへりくだることでやり過ごしていたんだと思います。監督と侃々諤々やったのは私くらいじゃないかな」

 ここまで聞くと師弟を超えた特別な関係を疑ってしまうが、有森は苦笑しつつ、

「それはないですね。私にとって監督は監督です。思い出を振り返るなかで気づいたんですが、監督が一番期待していたのは鈴木博美だったんじゃないかな」

「Qちゃんなんだよ」

 鈴木博美(50)は五輪でこそ活躍できなかったものの、1997年のアテネ世界選手権で優勝するなど、将来を有望視されたランナーだった。有森が続ける。

「監督は練習中もよく彼女の話をしてきました。“博美は本当にすごい。練習嫌いじゃなきゃ世界一になるんだけどなぁ”って。そして私には“お前の身体の素質はゼロだが、気持ちの素質で打ち勝て!”。監督としては、最初に五輪のマラソンで金メダルを獲らせたかったのは博美だったんだと思います」

 もうひとり、忘れてならないのはQちゃんこと高橋尚子(47)だろう。

 実は、小出監督は生前、本誌(「週刊新潮」)のインタビュー取材にこう漏らしたことがある。

「やっぱり、俺にとってはQちゃんなんだよなぁ」

 唯一の金メダリストということで思い入れが強いという意味か、それとも……。

 スポーツジャーナリストの満薗文博氏によれば、

「監督は練習中の高橋には声をかけず、無視して他の選手ばかり指導するんです。で、高橋が徐々に焦り始めるタイミングを見計らって練習後に電話をかける。“Qちゃん、今日の走りは良かったぞ!”と。すると、見捨てられたと思って落ち込んでいた高橋が、奮起して練習に励むようになった」

 選手ひとりひとりの性格や体調を見抜いて愛情を注ぎ続けた。泉下の監督の答えは知る由もないが、教え子の誰もが「愛された」と感じているのは間違いない。

「週刊新潮」2019年5月16日号 掲載

新潮社

最終更新:5/19(日) 5:57
デイリー新潮

記事提供社からのご案内(外部サイト)

デイリー新潮

新潮社

「週刊新潮」毎週木曜日発売

「デイリー新潮」は総合週刊誌「週刊新潮」が発信する最新の話題に加え、専任取材班による綿密な取材に裏打ちされた記事を配信するニュースサイトです。

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事