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「ナイポール」が故郷を舞台に描く自伝的小説

5/20(月) 11:00配信

Book Bang

 2001年にノーベル文学賞を受賞、昨年8月に85歳でこの世を去ったV・S・ナイポール。彼の事実上のデビュー作が『ミゲル・ストリート』(小沢自然、小野正嗣訳)だ。故郷を舞台にした、自伝的要素の濃い作品だ。

 カリブ海に浮かぶ島々、トリニダード・トバゴがまだイギリスの植民地だった頃。下町のミゲル・ストリートには、強烈な個性を持った人々が暮らしていた。「名前のないモノを作っている」という自称大工、世界でいちばん素晴らしい詩を作っているという自称詩人……。彼らの人生の断片が、少年の目を通して語られる。

 少年はやがて街を出ていく。著者も奨学金を得てオックスフォード大学に進学、卒業後も英国にとどまり、第三世界を批判する態度をとった。それでも本作からは、ユーモアと哀愁が伝わってくる。故郷に対する思いの複雑さを感じさせる。

 自身の幼少期をベースにした作品といえば、サローヤンの『ヒューマン・コメディ』(小川敏子訳、光文社古典新訳文庫)もそうだ。両親はアルメニア人の移民で、著者はカリフォルニア州の小さな村で育った。その体験が反映された小説である。

 父親がはやくに亡くなり、長男も出征したため、14歳のホーマーは学校に通いながら電報配達をしている。時には戦地での家族の訃報を届けねばならずためらうが、やがて長兄の死の知らせがきて……。こちらの著者の故郷に対する眼差しは、温かく、優しい。

 もう一作は、少年少女がたくましく生きた物語として、須賀しのぶ『くれなゐの紐』(光文社文庫)を。

 大正末期、消息を絶った姉を探して浅草にやってきた少年が、女装して少女ギャング団に潜り込む。身寄りのない者、家を捨てた者たちで構成されるその集団は、厳しいルールのもと固い絆で結ばれていた。

 著者によると、当時、本当に浅草には少年少女のギャング団がいたという。シンボリックな建物として登場する浅草凌雲閣が関東大震災で崩壊し解体されたと思うと、少女たちの末路と重なり余韻を残す。

[レビュアー]瀧井朝世(ライター)
1970年生まれ、東京都出身、慶應義塾大学文学部卒業。出版社勤務を経てライターに。WEB本の雑誌「作家の読書道」、文春オンライン「作家と90分」、『きらら』『週刊新潮』『anan』『CREA』などで作家インタビュー、書評、対談企画などを担当。2009年~2013年にTBS系「王様のブランチ」ブックコーナーに出演。2017年10月現在は同コーナーのブレーンを務める。

新潮社 週刊新潮 2019年5月16日号 掲載

新潮社

最終更新:5/20(月) 11:00
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