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「考えすぎちゃう」すべての人へ 短所が長所になる、絵本作家ヨシタケシンスケさんの生きるヒント

5/20(月) 6:30配信

Book Bang

 いまや固有の絵本作家として安定したポジションを確立した感のあるイラストレーターのヨシタケシンスケさんが、日頃のちょっとした心の引っかかりを、ひたすら四十八個綴った本です。各々の話題はただの羅列で、それぞれのパートにはイラストに読み切り型のごく短い解説文が添えられています。しかし、こんな紋切り型の説明では拾いきれないほど、これが普通の本ではないのです。

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 たとえば初っ端は、マツキヨのレジ背後のテーブルに置かれた箱に「ご自由にお使いください」と貼り紙されていたことから連想が始まります。まともな感覚ならば「不要なレシートを捨てるゴミ箱だろう」と解釈し、気にもとめないのでしょう。ところが著者は「試されてる」と感じるようです(イ抜き言葉からも想像されるように、人なつっこい文体で全編が綴られています)。ヨシタケさんは、自由に使ってよい以上は、通り一遍の解釈ではなく、奇抜なアイデアや大喜利が要求されているようで「やばい」と直感するのです。

 この時点でなんとも自意識過剰な気配が漂うのですが、ここに留まって痛い雰囲気で終わらせないのが著者のスゴさ。着眼点が一気に飛翔します。ふと気づけば「人生も、神様に、どうぞご自由にその身体をお使いくださいって言われて」いるようなものだと指摘します。ブっとんだ屁理屈ながら、はたと膝を打ちます。まさにその通り。「自由とは、自由であるべく不自由になることである」というフランスの哲学者サルトルの名言を思い出しました。

 ある事象を別の枠組みから眺めてこころの風景を刷新することを、心理学ではリフレーミングと呼びます。この本はリフレーミングに次ぐリフレーミングの連続。もはやリフレーミングの暴風雨です。ヨシタケさん本人も「めんどくさい感じ」と自嘲します。

 不思議なことに、だからといって後ろ向きな陰気で湿っているわけではありません。むしろ私は、一連のエピソードに若い芽が萌えるような新鮮な力を感じました。それもそのはず。リフレーミングは、カウンセリングの現場では、失敗や苦悩から自分を解き放つ心理テクニックでもあります。たとえば、仕事で行き詰まったときや、夫婦間で諍いがあったときには、入社式や結婚式当日の自分の心境を思い出すリフレーミングで、ずいぶんと前向きな気持になるものです。「よし、もうひと踏ん張りして問題を解決しよう」と。

 ヨシタケさんも、自身のリフレーミング行為について「精神衛生上、必要なリハビリ」「自分をはげまし続ける」とはっきり書いています。要するに、この本は人生の応援歌なのです。実際、各エピソードは「幸せとは、するべきことがハッキリすること」「このこどく感はきっと何かの役に立つ」「もし、そうなったら、そういうものをつくればいいだけだよ。」など、勇気を与えてくれる言葉に溢れています(ヨシタケさんのイラストがここに添えられないので名言の真意を伝えられないのが悔しいところ)。

 ヨシタケさんは普段から手帳を持ち歩き、ふと気になったことをその場で書き留めるようにしているとのこと。そのメモ帳がヨシタケさん独特な絵本の源泉になるのでしょうが、ここでは、その隠しネタが惜しげもなく公開されます。太っ腹。ホームランネタが連発するだけに、読んでいて「もったいない」という気持ちにもなります。いや、厳密にいえば、赤裸々すぎて、なんだかヨシタケさんの素裸を覗き見しているような、ある種の背徳感と悪趣味感さえ覚えます。しかし、そうした居心地の悪さを「まさに」「あるある」と掌指すごとき爽快感が凌駕するは著者のマジックでしょう。

 最後に「プンちゃん、はさまっちゃってるよ?」のエピソードから。買ってもらったぬいぐるみ「プンちゃん」に飽きてしまった我が子に、今やほかのおもちゃの下敷きになって気の毒なプンちゃんを指摘したら、「だいじょうぶ。プンちゃんのいたいのだいすきだから」との返事。コーヒーを吹き出しそうになりつつも、これこそがヒトの特徴だと、脳の専門家である私は深くうなずいたのです。脳は大なり小なり、常に自分に都合がよいように物語をでっちあげています。その物語にどっぷり浸かり、そして浸かり過ぎることで、その世界が自作自演であることを、当の本人が忘れている。それが人間の本質であり、人生そのものです。「自戒」というリフレーミングをプレゼントしてもらったような気がしました。

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 ※人生の応援歌――池谷裕二 「波」2019年5月号より

[レビュアー]池谷裕二(東京大学大学院薬学系研究科教授)
いけがや・ゆうじ

新潮社 波 2019年5月号 掲載

新潮社

最終更新:5/20(月) 11:41
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