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【張本勲の“喝”】なぜ私がイチローには“喝”を出さないのか/張本勲コラム

5/21(火) 10:59配信

週刊ベースボールONLINE

 私は、これまでメジャーに行った多くの選手に“喝”を出してきた。もちろん、別にメジャーに行ったからではない。

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 メジャー行きに関しては、人を売買するようなポスティングシステムには反対だし、それで選手を売って大金を得ている球団には、何度でも“喝”を出していくつもりだが、選手には関係がない。メジャー選手が番組で話題になることが多いから目立つだけで、それぞれに理由のあることだし、日本にいる選手にも、もちろん多くの“喝”を出している。

 そんな私であるが、「イチローだけには“喝”を出していないではないか」と言われることがある。以前、「日本とメジャーを合算した通算成績には意味がない」という話をしたことがあるし、それは今も変わらない。だいたい1年の試合数も環境も違うのに、比較などできるはずがないだろう。

 ただ、確かにイチロー自身に“喝”を出したことはほとんどない。むしろ“あっぱれ”ばかりのはずだ。

 私は、2009年、彼がメジャー通算で私の持つ記録、3085安打を抜こうというときに現地に行った。そこで、あいさつ程度はしたが、ヒザを突き合わせて深く野球の話をしたことはない。

 誤解している人もいるようだが、私は彼が野球に取り組む姿勢には共感するし、感銘も受けている。どんなときでも常に高い境地を目指し、より高い技術を追い求め続けていた。どれほどの成功を手にしても、決して妥協せず、常に上を見据えていた。たくさんの言葉を交わさずとも、それは彼のプレーを見ていれば分かる。

 これは私もそうだが、イチローも決してほかの選手の記録を抜きたくて練習をしてきたわけではないはずだ。自分と他人を比較しているうちは一流ではない。それは私のこれまでの経験則からも断言できる。

 私の例で言えば、通算3000安打、打率4割は、日本球界では過去にも誰も実現していない。誰かを目標にすることすらできない記録だった。私は、その数字ではなく、自分の限界がどこにあるのか、その可能性を追求してみたかった。そのためには過去の自分や、あしたの自分を考えても仕方がない。いままさに、打席にいる自分に集中していかなければならないと思っていた。記録はその先にあるものだ。

 たぶん、イチローも私と同じだと思う。適切な言葉かどうか分からないが、私は彼を「技術屋」だと思っているし、私自身もそうだった。

 あらためてになるが、メジャーでこれだけの実績を積んだ日本人選手が日本で引退を発表してくれたことは“あっぱれ”だし、感謝もしている。だが、そのイチローがマリナーズの球団会長付特別補佐兼インストラクターに就任したことに関しては納得できない。

 メジャーのホームゲームの大半には帯同するということだが、正式なコーチの肩書があるわけではない。単に補助的なものであり、多くは3A、つまりは二軍で指導するという。若手にイチローの技術を伝え、育ててほしいという名目なのだろうが、それではあまりにもったいないように思う。

●張本勲(はりもと・いさお)
1940年6月19日生まれ。広島県出身。左投左打。広島・松本商高から大阪・浪華商高を経て59年に東映(のち日拓、日本ハム)へ入団して新人王に。61年に首位打者に輝き、以降も広角に打ち分けるスプレー打法で安打を量産。長打力と俊足を兼ね備えた安打製造機として7度の首位打者に輝く。76年に巨人へ移籍して長嶋茂雄監督の初優勝に貢献。80年にロッテへ移籍し、翌81年限りで引退。通算3085安打をはじめ数々の史上最多記録を打ち立てた。90年野球殿堂入り。現役時代の通算成績は2752試合、3085安打、504本塁打、1676打点、319盗塁、打率.319

写真=Getty Images

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最終更新:6/14(金) 10:56
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