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「県産品で生産者との距離密に」:食べる通信の編集術

5/21(火) 13:38配信

オルタナ

インターネットが普及するなかで衰退する地域の情報を伝えるタウン誌。そんななか、多くの消費者に魅力的な形で発行されるものに、食べ物付き情報誌「食べる通信」がある。今回は、その1つである、「おきなわ食べる通信」を制作してきた長嶺哲成さんに生産者と読者の距離を近づける編集術について聞いた。(武蔵大学松本ゼミ支局=芝崎 万葉・武蔵大学社会学部メディア社会学科2年)

『食べる通信』とは、生産者を特集した情報誌とその生産者が作った生産物が一緒になって届く情報誌である。最初の食べる通信は東日本大震災後の東北で誕生した。東北では原発事故が発生した影響で生産物に対する風評被害があり、海で生産されている牡蠣が売れなくなった。

このような状況下で、生産物が安全なものであることを全国に伝えることを目的として『東北食べる通信』が発行された。食べる通信の商標管理などを行う日本食べる通信リーグに加盟している食べる通信は全国で40近くあり、各地のこだわりのつまった食品が購読者に届けられている。そのなかのひとつ『おきなわ食べる通信』はマーケティングフォースジャパンから発行されており、沖縄で生産されている生産物を特集している。

今から3年前、長嶺さんが制作を開始し、現在、170人程が購読している。主に40~50代の人に講読され、8割は県外の読者で、うち7割が首都圏にあたる。

長嶺さんは『おきなわ食べる通信』制作に至るまでの過程を「縁」と言う。長嶺さんには「沖縄が好きで、沖縄の物品を県外の人たちに知ってもらいたい」という思いがあった。また周囲に沖縄で質の良いものにこだわって作っている生産者の知り合いが数多くいた。『おきなわ食べる通信』を始めるきっかけになったのは、先代の社長から知り合いだったマーケティングフォースジャパンから沖縄での取材を依頼されたことだ。

長嶺さんは以前から食べる通信を制作することを試みていたが、その際の依頼は、ビジネス目的としてのものだった。しかし、食べる通信は大量生産が難しい生産物を扱い、かつ長嶺さんの知り合いには少量生産の生産者が多いためビジネス目的で発行するのは難しいと考えた。

ただマーケティングフォースジャパンから「少量だが、こだわったいいものをほしいと思っている人に届ける」ことを目的とし、「大きいビジネスにはならないが、こだわったおいしいものを届けたい」ということを伺った。これが、長嶺さんが理想とする形と合致したため、沖縄編集室の編集長を引き受けることになった。

食べる通信の良いところは生産量の少ないものや、また消費期限が短くあまり市場に出回らないものを消費者に紹介することができ、同時に生産の様子と生産者の声を届けるとことができるところだ。

また、SNSが普及した今、生産者と購読者のFacebookでの交流も行われている。生産者と購読者が互いに直接つながることで、生産物が旬の時期になったときに直接生産者に問い合わせて購入することができるようになる。受け取るだけの一方的なやりとりだけでなく、その先に互いの繋がりを作ることができるのだ。

このような食べる通信をきっかけとした繋がりをつくる活動は他にもある。「おきなわなんでも研究会」と「おきなわ食べるツアー」だ。「おきなわなんでも研究会」は、都市のレストランなどで行われ、「おきなわ食べるツアー」は沖縄の畑で行われている。

生産者と直接会って語り合うことができ、また畑に行って生産物に触れることができるこれらのイベントは、互いの距離を近づけ、より深いつながりをつくることができるきっかけになる。長嶺さんは「生産者と消費者の距離が密になることはとても大切なこと」と語る。

新聞など他の媒体を使って紹介することも可能だが、それは売買という一回きりのものである。しかし食べる通信は一回きりではなく、生産者と購読者が交流できる場がある。食べる通信をきっかけに新たなコミュニティが形成され、生産者と消費者が互いに繋がりを感じられることこそが食べる通信の魅力であり醍醐味なのだ。

そんな『おきなわ食べる通信』も課題がある。制作するためのコストだ。現在「おきなわ食べる通信」は赤字を出しながら制作を行っている。制作するための収入源は定期購読料であるため、購読者を増やすことで脱却することができるが、生産量が少ないために講読者数を増やすことは容易ではない。

ちなみに長嶺さんはかつて琉球新報が発行する『週刊レキオ』の編集長をしており、近年、若い世代を中心とした紙離れに伴い多くのタウン誌がなくなる中、この『週刊レキオ』は新聞の副読誌として今日も発行が続いている。

外部の会社に制作を委託する場合、制作会社は継続してもらうために常に質の向上を図る。その点、自社制作をしていく目的は「とにかく続ける」というものであるため、タウン誌としての質は落ちる。副読誌が質を維持していくのは難しいのだ。新聞や雑誌、マンガすら売れなくなっている今、独自に有料の紙媒体を制作・発行するのは難しい。

ただ沖縄の情報を伝える紙媒体を発行する上で重要なのは、制作側がいかに楽しんで作るかということだ。長嶺さんは、『おきなわ食べる通信』の制作を「面白いからやっている」と語る。特集される生産物は少量生産であるため大きなビジネスにはならないが、ちゃんとこだわりをもって頑張っている人たちがいて、そんな彼らの手助けが少しでもできれば次世代に「こだわり」をつないでいくことができるのではないか。

そしてなにより、こだわりをもって丁寧に作っている人たちはとても面白い。それが元気の源になり、その元気が少しでも多くの人に届けられればいい。このような思いが、『おきなわ食べる通信』の制作へと向かわせているのだ。

インターネットの普及に伴いタウン誌の廃刊や雑誌の休刊など様々な紙媒体の衰退が顕著に表れているなかで、地域密着型の情報誌はもちろん紙媒体がこの先再び需要を取り戻して継続していくためには、紙媒体の特徴をつかんで紙でしかできないことを見出し、紙媒体から離れている人たちの興味を惹くものを考えていかなければならない。

Webやインターネットとの差別化を図り、いかに紙でしか欲しくないと思わせるかが重要だ。同時に、具体的な意思をもって制作側が楽しみながら意欲的に制作ができれば、企画や取材に反映され魅力的なものになり、自然に質の良いメディアが作れるのではないだろうか。

最終更新:5/21(火) 13:38
オルタナ

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