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アニメの仕組みが変化した平成「ビジネスモデル的ベスト5」

5/21(火) 8:01配信

FRIDAY

平成ベストアニメ20〔2〕〔ビジネスモデル的ベスト5〕 アニメ・ジャーナリスト数土直志が厳選!

平成はアニメにとって激動の時代だった。それは映像表現や文化だけでない。アニメを通して、いかにお金を稼ぐか、ビジネスの仕組みもまた社会の流れに合わせて激変している。
むしろビジネスこそ時代の変化に敏感だ。発表した作品の制作費を回収できないと、次から制作が難しくなるからだ。
ビジネスモデルが変わる理由は、レーザーディスクやDVDといったメディアや機器の普及・交代、放送局や映画会社、制作会社の事情。さらにリーマンショックや海賊版と、思わぬことが影響することもある。平成の時代に重要作品を取り上げる「平成アニメ20選」第2回は、アニメビジネスで大きな役割を果たした5作品を選んでみた。※第3回:監督編、第4回:技術編の予定。

【画面写真はコチラ】アニメの仕組みが変化した平成「ビジネスモデル的ベスト5」


◆『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』(平成4年)
TV放送もなく、劇場公開もしない。平成の始まりにはそんなアニメが大量に作られていた。OVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)と呼ばれ、VHSやレーザーディスク、DVD、ブルーレイといったビデオソフトでまず発売される作品である。
数万人の熱心なファンがまとまった金額で映像ソフトを購入すれば、それだけで制作費が全部回収できるとの算段だ。マニア向け作品では、当時もっともポピュラーなアニメビジネスモデルだった。
この時期に最近ハリウッドで実写映画化もされた『銃夢』や『獣兵衛忍風帖』、『天地無用』、『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』など、知る人ぞ知る傑作が続出した。

しかし『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』こそが、平成初期のOVAを代表する作品だろう。全7エピソードそれぞれが約1時間にもなる大作シリーズである。
横山光輝の原作の世界観を、今川泰宏監督が大胆に再構築。奇想天外な視聴者を圧倒する迫力と、芝居がかった歯切れのよさ。のちに『ハウルの動く城』の作画監督などでスタジオジブリにて活躍する山下明彦、映画監督の樋口真嗣などキラ星のようなスタッフが大勢い並ぶ。『エヴァンゲリオン』の庵野秀明もオープニングに参加するなど梁山泊さながらだ。

第1話「黒いアタッシュケース」が平成4年、最終話の第7話「大団円~散りゆくは、美しき幻の夜~」は平成10年のリリースだ。足かけ7年にも及ぶ制作は、深夜TVアニメや劇場アニメ、配信アニメでは難しかっただろう。平成初めのOVAだからこそ実現できた傑作である。

◆『NARUTO -ナルト-』 (平成14年)

平成21年9月に『NARUTO -ナルト-』が初めてアメリカでTV放送された時の衝撃をいまでも覚えている。放送の翌月の北米グラフィックノベル(アメリカのコミック単行本)の売上げベストセラーの上位に『NARUTO』の既刊がずらっと並んだのだ。TVを観た子どもたちが原作マンガを買うために慌てて書店に駆け込んだ結果である。そこから世界での『NARUTO -ナルト-』の快進撃が始まった。
それまでも『ドラゴンボールZ』、『美少女セーラームーン』、『ポケットモンスター』など世界ヒットのキッズアニメはなかったわけでない。しかしアニメ放送の前後で、ここまで鮮明に切り替わった例はなかった。
もうひとつ『NARUTO』は、マンガ、アニメ、グッズを戦略的にグローバル展開したことも大きい。世界で人気でも日本に戻るお金は少ないとされるアニメだが、その世界ヒットは日本の関係会社にも大きな利益をもたらしたはずだ。


◆『ハチミツとクローバー』(平成16年)
羽海野チカの人気少女マンガ『ハチミツとクローバー』がTVアニメ化されたのは、平成16年だ。本作を「平成アニメ20選」、「ビジネスモデルベスト5」とすることに驚く人も多いだろう。傑作ではあるが、大ヒットとの印象は薄い。それがアニメ『ハチミツとクローバー』の立ち位置を示す。
『ハチミツとクローバー』の放送から15年後の現在も続くフジテレビの深夜アニメブランド「ノイタミナ」の第1弾である。『のだめカンタービレ』、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』、『PSYCHO-PASS』、『BANANA FISH』などのヒット作を次々生み出すノイタミナだが、その始まりは意外に静かだったのだ。

もちろんフジテレビにとっては野心的なプロジェクトだ。当時すでに市場が急拡大していた深夜アニメへのテレビ局としての本格進出である。当初から2クール(半年)の放送、第1期の一年後に第2期を制作したことからも『ハチミツとクローバー』が大きなプロジェクトであったことがわかる。
しかし「ノイタミナ」のコンセプトは、最初の「大人の女子向けアニメ」から「エッジの効いた作品」、さらに「コアなアニメファン向け」とたびたび路線変更される。それでも現在放送中の『さらざんまい』まで65タイトル、さらに劇場映画14タイトルまで続くのは、短いシリーズが多くタイトルが忘れられがちな深夜アニメを、ブランドとして売る戦略の成功にあった。

◆『劇場版 空の境界』(平成19年)

平成19年、東京の映画館・テアトル新宿で小さな熱狂が巻き起こった。レイトショーのみの上映で公開をスタートした『劇場版 空(から)の境界』(『「空の境界」第一章 俯瞰風景』)が連日満員となったのだ。モーニングショーが追加されるが、そのイレギュラーな上映だけでテアトル新宿の興行記録を築きあげる。

『空の境界』は奈須きのこの伝奇小説が原作だが、もともと同人サークルの作品として始まった。それが一般書籍化され、アニメ化にいたる。
小さな興行スタートは熱狂的な限られたファンの作品と思われたのかもしれない。しかし同人での人気の高さは作品が多くの人にアピールする魅力が溢れていることの証明だ。『空の境界』は同人からTVアニメのビジネス成功を象徴する作品となった。それはさらなるヒット作『Fate』シリーズのアニメ展開に広がる。

『空の境界』のもうひとつの役割は、製作の中心となったアニメ会社アニプレックスの変化だろう。ビデオソフトメーカーのアニプレックスは、本作で数は限られても消費行動の高い熱狂的なファンを満足させることで成り立つビジネスをここで発見する。
この後アニプレックスはファンの熱狂を高め、それを映像だけでなくイベント、グッズ、音楽、ゲームとあらゆるとメディアに広げるビジネスモデルを積極的に展開する。それは『〈物語〉シリーズ』や『Fate』シリーズの大ヒットにもつながっていく。年間売上高2000億円を超えるアニプレックスとそのグループ会社の原点は、『空の境界』にあるのだ。

◆『DEVILMAN crybaby』 (平成30年)

平成の始めはTV放送も劇場公開もしないOVAのビジネスモデルが盛況だったが、平成の終わりに再びTV放送も劇場公開もしないアニメが続々登場している。
しかし作品発表の場はビデオソフトではなく配信だ。アニメの動画配信は平成10年代頃から次第に姿を現したが、長らくビジネスの主流ではなかった。平成14年に『機動戦士ガンダムSEED』が番組放送との同時期配信で、再生回数とテレビ高視聴率の両立で話題を呼んだが利益回収が出来たわけでない。「よく見られるけれど儲からない」、これがアニメ配信に対する長い間のビジネス評価であった。

平成20年代後半に状況が一変する。日本アニメの人気に着目した海外の動画配信会社が配信ライセンスを高額購入するようになり、これがアニメビジネスを支える柱のひとつになる。
さらに平成27年にNetflixとAmazonプライム・ビデオの日本上陸で、定額課金見放題サービスが国内で一気に広がり、アニメ配信が普及する。

配信会社はTV放送も劇場公開もしない自社だけのオリジナル作品を求めだす。永井豪の名作マンガを、衝撃的な表現は原作そのままにアニメ化し、原作の最後までを描き切った『DEVILMAN crybaby』は、 Netflix独占タイトルとしてテレビ放送を想定せずに製作された日本アニメの第1弾だ。これをスタートにCGアニメ『ULTRAMAN』、サンリオのキャラクターを映像化した『アグレッシブ烈子』などNetflixでしか観られないオリジナルアニメが次々に登場する。NetflixやAmazonプライム・ビデオの日本上陸からわずか4年、日本のアニメビジネスの風景は一変しつつある。

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アニメビジネスの変遷は、5作でとても語れないところがある。みなさんが「平成アニメビジネス史に欠かせない」と考える作品はなんだろうか?

文/数土直志
(すどただし)アニメジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

最終更新:5/21(火) 17:44
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