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北極海温暖化で過熱する米中露の覇権レース

5/21(火) 12:22配信

Wedge

 かつては分厚い氷で人を寄せ付けなかった北極海が今、温暖化による氷解が進み、海底に眠る豊富な資源の存在に世界の熱い視線が集まってきている。その中でもめだつのが、開発と覇権めぐり火花を散らし始めた米中ロ3大国の存在だ。

 「世界は今日、かつてないほど磁石のように北極海に引きつけられつつある。われわれは今後、勢力争いと競争の場となりつつある新時代に備えていく必要がある」

 今月6日、フィンランドで開催された「北極評議会」(The Arctic Council)に初めて出席したポンペオ米国務長官の演説は、冒頭から緊張感をにじませる調子で始まった。

 「北極評議会」は1996年、北極圏に領土を持つアメリカ、カナダ、ロシア、フィンランド、ノルウェー、デンマーク、スウェーデン、アイスランドの8カ国が集まって組織され、2年に1度の閣僚会議で共通の問題について意見交換が行われてきた。

 しかしその後、地球温暖化の影響で北極海域の海氷溶解が進むにつれ、海底資源の開発、大西洋からシベリア海への新たなシーレーン確保も可能となった結果、その戦略的価値が一躍脚光を浴びるにいたった。このため、これまで地理的に縁の遠かった中国、日本、韓国、インドなどを含め他の14カ国もオブザーバーとして参加し始めており、閣僚会議も回を重ねるごとに活発な意見交換の場となってきている。

 そんな中で、一段と熱気のこもった演説をしたのが、ポンペオ長官だった。

 長官は、まず前段で、「北極海の戦略的価値と国際間協力」の意義について以下のような点を指摘した。

・アメリカは、1857年に当時のウィリアム・シーワード国務長官が貴重な財産であるアラスカを購入したが、今やその価値はかつてなく高まり、北極海国家として北極海の将来のために立ち上がるべき時が来た。
・この海域はシーワード長官当時に考えられていたような不毛で未開な僻地であるどころか、世界全体の未発見原油の13%、天然ガスの30%、未曾有のウラン、レアメタル、金、ダイアモンドなどが何百万平方マイルの海域に広がり、魚類はあふれんばかりに豊富に存在する。
・しかも、海氷が着実に減退し始めた結果、新たな交易と通航のチャンスを到来させ、アジア―西部欧州海域間の航海に要する時間は20日も短縮されてきたため、北極海は急速に新たな戦略的重要性を帯び始めている。北極海シーレーンはいわば「21世紀のスエズ、パナマ運河」ともいえる存在だ。
・それゆえにメンバー8カ国は、過去数十年間,科学面の協力、文化・環境面の調査・研究という極めて重要な諸テーマに焦点を絞り取り組んできたように、今後は「パワーと競争」の場となった北極海の新しい未来に向けて正しく対応していくべきだ。

 さらに長官は後段で一転して、ロシアそしてオブザーバーである中国を繰り返し名指しで批判、具体的に以下のような行動パターンについて疑念を表明した:

1.ロシアは先月、北海をアジア―北部欧州間にまたがる中国の「一帯一路」とリンクさせる計画を発表、同時に中国は北極海に複数のシーレーン開発計画に着手している
2.中国は中国マネー、中国企業、中国人労働者を使い、同海域のインフラ開発に乗り出し、ある部分では中国の恒久的安全保障プレゼンス確保を企図している
3.米国防総省は最近、中国が今後、北極海に持つ商業用研究施設を核攻撃抑止力としての原子力潜水艦配備基地に転用する可能性について警告を発している
4.中国は、南シナ海、アフリカなど世界の他地域において侵略的、軍事的行動をとってきたが、われわれは同様に、北極海海域においても、中国のこれからの行動を注視していく必要がある
5.ロシアは「北極評議会」のフルメンバーだが、北海ルートの公海について“領海”を主張、他国船舶や砕氷船の通過の際には事前通過許可とロシア人パイロットの乗船を義務付け、これに応じない場合は軍事力行使の脅しをかけるなど、国際法上の違法行為を続けており、憂慮すべき問題だ
6.ロシアは2014年に北極軍事基地を建設以来、同海域における軍事プレゼンスを着々と強化、これまでに16カ所に深海港を開港したほか、475カ所に新たに軍事基地・拠点を建設した

 もちろんアメリカが、北極圏における中国やロシアの野望について言及したのは、今回が初めてではない。ジョージ・W・ブッシュ、オバマ政権当時から、国防総省の年次報告などを通じ注意を喚起してきた。また、ストックホルム国際平和問題研究所(SIPRI)もとくに中国について、すでに2010年の段階で「氷のない北極に備える中国」と題する研究報告書を発表、この中で「中国は1984年以来、南極に探検隊を合計26回にわたり派遣、3カ所に調査基地を設置してきた実績を踏まえ、北極には1995年、科学者、ジャーナリストの混成チームによる徒歩による踏破に成功した。それ以来、2004年には、中国初の調査基地がノルウェー・スバルバード諸島沿いの地点に建設された。また、1994年以来、同国が誇る世界最大の砕氷船を投入、さらに今後予想されるさまざまな活動拡大に対応するため、20億中国元を新たに投じて8000トン級の最新鋭砕氷艦を建造中……」と述べている(2013年、ウェッジ社刊、拙著『中国 vs アメリカ』参照)

 ただ、今回のように激しい調子で両国の活動を同列に置いて批判したのは初めてだ。その背景として、トランプ政権発足以来、いずれも対米関係の悪化という共通の状況下にある中露が提携を深め、北極海における関係強化の動きが念頭にあることは間違いない。ポンペオ長官が「北極評議会」演説で、中国の「一帯一路」構想と北極海シーレーン計画へのロシア参加決定に具体的に言及したことは、その表れであり、アメリカ側の焦りを反映したものといえよう。

 ポンペオ長官は、このように北極海における中露の新たな動きをけん制した上で、今後のアメリカの対応として、(1)同海域におけるアメリカの外交および安全保障上のプレゼンスを一段と強化していく(2)とくにロシアの不穏当な活動に対抗して軍事演習を実施していく(3)軍事プレゼンス強化の一環として砕氷船艦隊の再建および沿岸警備隊関連予算の拡充に着手する(4)米軍内に北極海担当の上級ポストを新設する―などの具体策を明らかにした。

 これに対し、同席したラブロフ露外相は「北極海が直面する諸問題の解決にはより深化した国家間協力が求められる。そのような時に、軍事的対応で処理しようとする試みは前例がなく、また軍事対立をあおるいかなる口実も存在しない」と反論、ポンペオ長官の挑戦的態度にくぎを刺した。

 また、中国も外務省報道官がただちに同長官発言に言及「北極海における平和的国際協力の全体的基調は以前と何ら変わっておらず、アメリカの主張は事実を歪曲し、善悪を混同したものであり、下心と隠れた動機に根ざした発言だ」と酷評した。

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最終更新:5/21(火) 12:22
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