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北極海温暖化で過熱する米中露の覇権レース

5/21(火) 12:22配信

Wedge

トランプ政権にとっての最大の皮肉

 しかし、中露との対抗上、北極海の「戦略的重要性」を強調し始めたトランプ政権にとっての最大の皮肉は、世界180カ国が批准した地球温暖化規制の国際取り決め「パリ協定」からの離脱と北極海の現状との矛盾だ。

 なぜなら、北極海は世界のどの地域よりも温暖化の影響が大きく、氷山や海氷の溶解が急速に進んでいるからだ。

 5月8日付『ナショナル・ジオグラフィック』誌電子版も「世界の頂上で展開される新たな冷戦」の見出しで論評を掲げ「地球儀のてっぺんはこれまでの人類史を通じ、厳寒で僻地で危険に満ちた過酷な条件ゆえに、他の地域を変容させてきたような集中的開発からは縁遠い存在だった。しかし今日、北極海は地球のどの地域よりも早いスピードで温暖化が進みつつある。とくに2007年には、記録的な気温上昇の結果として、それまで夏季を含め年間通じ北極地点を覆っていた広大な厚い流氷が最低レベルまで縮小した。それ以後は、かつて商業利用や軍事的野心を抑制してきた分厚い海氷からなる防御バリアが崩壊したことで、新たに出現した“地球上のニューフロンティア”に向けて各国による投資、開発ラッシュに拍車がかかり始めた」と解説している。

 つまり、一方では、北極海における中露の活動が活発化してきたのも、温暖化による氷解と密接な関係があるからであり、それゆえにアメリカも遅ればせながら対応を迫られることになったという現実がある。他方、世界中の大半の国が「地球温暖化」対策に取り組む意欲を示す中でアメリカだけが「パリ協定」から離脱したことは、大きな矛盾以外の何物でもない。

 本来なら、北極海における中国やロシアの進出を批判する前に、アメリカとしては最低限「パリ協定」からの離脱方針を見直すべきであり、そうしないかぎり、関係各国の理解と同情も得られないのは自明の理だ。                            

 しかし、トランプ大統領は就任以来打ち出してきた反環境主義からは一歩も後退する姿勢を見せていない。

 それどころか、ポンペオ国務長官は今回の「北極協議会」閣僚会議で「地球温暖化」対策の重要性に言及した文言を最終日の共同宣言に盛り込むことに最後まで抵抗、この結果、過去の閣僚会議とは異なり、宣言文のないまま終了するという異例の事態となった。

 もしアメリカが今後も「パリ協定」を無視し、その一方で、北極海の氷解が加速するとすれば、同海域をめぐる中露との覇権レースにおいて“敵に塩を送る”状況が続くことになりかねない。

斎藤 彰 (ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)

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最終更新:5/21(火) 12:22
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