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「藤井聡太七段とは全盛期に戦いたい」 豊島将之新名人は“令和の覇者”となるか?

5/21(火) 17:00配信

文春オンライン

 2009年に刊行され、見る将棋ファンを代表して書かれた名著『シリコンバレーから将棋を観る』(著・梅田望夫)にこんな言葉がある。

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『どんなに才能溢れる人であろうとも、人生における「機会の窓」が開くことはそれほど多くはなく、(中略)一瞬開いた「機会の窓」を活かせるか否か。残酷なことだけれど、それが人生を決定する。』

羽生善治相手に一瞬開いた「機会の窓」

 豊島将之名人が「機会の窓」を活かしたのは第89期棋聖戦五番勝負の第5局・羽生善治棋聖(当時)戦だった。

 このシリーズでは羽生九段のタイトル通算100期なるかに注目が集まったが、豊島名人はアウェーのムードを覆して勝利し、初タイトルを獲得。一瞬開いた「機会の窓」を活かした。4度のタイトル挑戦失敗を経て待望の戴冠だった。

 ここからの活躍ぶりは驚嘆の一言だ。翌々月には王位戦七番勝負で菅井竜也王位(当時)を4勝3敗でくだして二冠目を獲得。

 2019年に入り、トップ棋士が集うA級順位戦を8勝1敗という圧倒的な成績で勝ち抜いて名人への挑戦権を獲得すると、4連勝という圧巻のスコアで佐藤天彦名人(当時)をくだし、三冠目を獲得した。

 豊島名人は名人戦を終えての記者会見でタイトル獲得前と後の変化について「1つ取れたことで精神的に気持ちが楽になった」と心境の変化を語っている。

「機会の窓」を活かしたことで豊島名人はわずか1年で3つのタイトルを獲得し、令和の覇者への一歩を踏み出した。

 前述の棋聖戦第5局では、駒組みの途中で玉の下に飛車を持ってくるという、「玉飛接近すべからず」の格言の真逆をいく大胆な構想を披露して勝利した。名人戦第1局では「壁銀」という悪形をあえて作る意表の受けで、わずかに不利とされる後手番で千日手に持ち込みシリーズの流れをつかんだ。

 大一番で見せる戦略性がいまの豊島名人の最大の武器だ。

驚きの戦略で「将棋AIにも勝利」

 豊島名人の大一番での戦略性といえば、第3回電王戦で対峙したYSS(将棋AI)との戦いを思い起こす。

 筆者は裏方として携わり、各対局者と研究内容についてディスカッションする機会も多かった。その中で豊島名人は他の棋士とは全く違う戦略を準備しており、本当に驚いた。

 京セラ創業者稲盛和夫会長の「構想を練るときは楽観的に、計画を練るときは悲観的に、そして、実行するときは、また楽観的に取り組むのです」という筆者の好きな言葉がある。

 戦前に構想を練る段階では、新しいチャレンジに心踊らせる気持ちが大切だ。しかしいくら将棋AIで研究したとしても、将棋に絶対はない。研究だけで勝てることはない。計画を練るときはそう悲観的にとらえる必要がある。しかしいざ実戦では準備した構想を信じる気持ちが勝利を呼び込む。

 電王戦での勝利はこの戦略を地でいくものだった。実戦で現れた驚嘆の踏み込みは、現在は研究が進んで無理気味とされている。しかし豊島名人はこの構想が理論的に無理であっても、将棋AIに勝つには踏み込んで激しい戦いにするしかないとある意味悲観的に考えていた。そして実戦ではその構想を信じた踏み込みが結果的に功を奏した。見事な戦略性による勝利だったのだ。

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最終更新:5/21(火) 18:15
文春オンライン

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