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日本のIT業界を自滅に追い込んだ、ITを知らない経営者たち

5/21(火) 7:00配信

幻冬舎ゴールドオンライン

日本はソフトウェアの価値を見出せなかった

■テクノロジーへの古い固定概念に囚われた日本

考えてみると、情報科学系のテクノロジーに理解が深い人材が不足する影響は、もっと根深いものがあるかもしれない。

日本のIT産業がたどって来た挫折の歴史を振り返ってきたが、明らかにハードウェアからソフトウェアに重心を移行させることに公共の大プロジェクトは失敗している。これまでの日本の政府も企業も、ハードウェアのようなかたちのあるものには強くても、ソフトウェアやネットワークのようなかたちのないものを扱うのは不得手に思えてならない。たとえばテクノロジーに理解がありそうな工学部出身の経営者も、ソフトよりもハード志向になっていないだろうか?

松原先生と坂村先生との話をとおして、社会の中枢に情報科学系出身のリーダーが非常に少ないと実感を新たにした。これは、経営からの疎外といえないか?

明治維新後、世界でもっとも早く大学に工学部を設置し、重工業に集中することで近代化を成し遂げた日本には、テクノロジーに対する古い観念が根付いてしまっている。総力戦体制じみた重工業への注力こそ、国がやるべきことだという固定観念さえあったように感じる。こうした観念に囚われたリーダーには、ソフトウェアやネットワークの重要性も、オープンなイノベーションも理解しにくい。

思えば日本のITの黎明期は、ハードウェアを扱う会社が本当は畑違いのソフトウェア業界に乗り込んで来た。そんなメーカーの経営者たちは――今でもそうかもしれないが――、「なんでソフトにお金を払うんだ」という感覚があった。見えないデータやネットワークにお金を払う感覚がないのだ。飲食店でいえば、対価を払うのは料理に対してであり、もてなしは無料で当たり前という感覚に近い。その店がもてなしによって繁盛しているというビジネスモデルを理解できない。

こうしたサービスを美徳のように思って、お金を稼ぐことをどこか良しとしない文化も少なからず影響しているだろう。

これまで、ずっと私たちのようなソフトウェア業界の人間は下請け的な立ち位置で扱われてきた。携帯をつくっている会社にすれば、「ソフトなんて無料でしょ、ハードでお金をとるんでしょ」という認識なのだ。これは日本だけに限らず、IBMですらそうだった。価値があるのはハードであって、OSとかソフトがお金になるとは思っていなかった。そこに登場したのがマイクロソフトであり、「ウィンドウズ95」でOSに一般的な価値があると初めて証明してくれた。

ソフトウェアがコンシューマに売れるという発想は、ゲーム業界という例外はあれど、日本人には持てなかった。というかアメリカ人しか持てなかった。日本人はかたちのないものにお金を払うことが元来苦手であり、ソフトウェアやITの知識があって決断できるリーダーがいなかった。かたちのないソフトウェアに価値があると気づいているのは現場の人だけで、それを大きなビジネスにつなげようという発想ができる人はいなかった。ソフトといえば、製品に付属するドライバのようなものしか想像できず、タダで提供するものだと経営者たちは思い込んでいた。

ハードウェアを買うとドライバが無料でついてくる。最新のレーザープリンタを買うと必ずドライバが同梱されている。現在でもそうである。しかも会社によってはドライバのプログラムを公開していないので、クローズドなまま、そこに誰も参入できない。もし参入できるようにすれば、ハード会社はそこでライセンス料をとれるかもしれない。そういうところも課題で、日本はもっと変わるべきだったと私は思っている。たとえばフロッピーディスクのライセンスの一部を日本人が持っていたのに、日本企業がそれをビジネスにつなげることができなかったような時代を早く終わらせなければならなかった。

ようやく時代が変わろうとする兆しが見えてきたのは、最近になってからだ。松原先生のゲーム情報学は、将棋、囲碁の研究価値が認知されるようになり、より難しい「人狼」などの不完全情報ゲームが研究されるようになってきた。坂村先生も、TRONプロジェクトを継続しながら、文系、理系にとらわれない人材の育成に尽力されている。

ITサービスは以前も若手が活躍していた。それがシステムなど裏側をつくっている人たちにも若い中小企業の社長が増えてきている。新卒でITに入り、現場で実力を身につけた人が経営層に入ってきたのだ。今後はITの本当の力をわかっている現場の人が上に立つようになる。決断ができる社長が出てくる。決断ができる人が、研究開発をやろうと踏み込んでAIやIoTに力を注ぎ込む。日本のIT業界はここからが本番である。

福原 智

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最終更新:5/21(火) 7:00
幻冬舎ゴールドオンライン

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