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劉鶴・国務院副総理が対米交渉「決裂」後に語った本音

5/21(火) 10:05配信

ダイヤモンド・オンライン

 米中関係が三度、緊迫している。

 5月18日、王毅外相兼国務委員がマイク・ポンペオ米国務長官からの“要請に応じて”(筆者注:中国が現状や相手国に不満や不信を持っている場合に往々にしてこのような表現が使われる。中国語で「応約」)電話会談を行った際、「最近、米国側は多くの分野で中国側の利益を損なう言動を取っている。そこには政治的手段を通じて中国企業の正常な経営に打撃を与える措置も含まれる」と指摘し、中国政府を代表して米国側に「断固たる反対」を表明した。

 “多くの分野”には、米商務省が中国通信機器最大手の華為技術に対して課した輸出規制、米下院による台湾を支持するための法案可決、そして2000億ドル相当の中国商品に対する関税率を10%~25%へ上方修正といったものが含まれるのだろう。

● 不満を表明する 中国側の事情

 追加課税が実施された3日後(5月13日)、中国側は報復措置として6月1日から600億ドル相当のアメリカからの輸入品への関税率を最大25%に引き上げると発表した。

 筆者が本稿を執筆している5月20日現在、中国の対米世論は沸騰している。対米関係という中国共産党の正統性にとって極めて敏感なテーマなだけに厳格な報道・言論統制が敷かれているが、“党のマウスピース”国営新華社通信による報道や論考だけを追っていても、中国当局が昨今どれだけ米国に対して不満を持っているかが容易に見て取れる。

 参考までに5月19日に配信された記事3本のタイトルを載せておく。

 《被害者のフリをするパフォーマンスは拙劣極まりない》
 《言動の不一致と前後矛盾:米国式いじめの信用汚点》
 《すぐに顔を変えてしまう米国は非常に世間体が悪い》

 これらのタイトルにも露呈されているように、中国共産党として、もはやトランプ政権を信用していないように見える。ただ米国との通商協議をまとめ、国内外の市場や世論に自信と安心を再び提供することを目的としてきた党・政府としては、少なくとも現時点ではそれが実現せず、交渉が失敗に終わった“全責任”を米国側になすりつけ、自らは被害者を演じるしかないという事情があるのだろう。さもないと、対外関係、経済情勢という中国人民の生活にとって死活的に重要な分野で党指導部は交渉と解決に失敗したと自国民からみなされ、党の正統性に傷がつくことになる。

 企業家、労働者、消費者などは党・政府の手腕や能力に疑問符をつけることになる。共産党内で現指導部に不満や反発を持つ勢力や人物は逆に現状をチャンスだとみなし、習近平共産党総書記やその周辺に圧力をかけるべく乗り出してくるかもしれない。いずれにせよ、習近平政権の権威性や求心力が揺らぎ、政権運営が不安定化する統治リスクに見舞われているというのが現状だと解釈できる。

● 劉鶴副総理がメディアに 語った“不一致な部分”

 米国が追加課税を正式発表する直前、米中通商交渉の総責任者である劉鶴・国務院副総理・政治局委員(中国共産党トップ25)が自ら米国へ赴き、米国側と交渉を行っていた。より具体的に言えば、米国側が追加課税を正式発表し、中国側として面目や国益を失う事態を何とか避けるために最後の努力をすべく奔走していた。

 ワシントン到着直後、劉副総理は待ち受けていた中国中央電視台(CCTV)の駐在記者に対して、「私は今回誠意を持ってここに来た」と言った。ただ同時に「私は圧力を堪えながらここにいるのだ」と語った。

 特筆すべき点として、普段は表舞台に出てきてもメディアの取材に面と向かって答えることがまれであるのが中国の国家指導者であるが、今回の対米交渉終了後、劉副総理は中国メディアの取材に応じた。筆者から見て、国内、米国、市場、世論など多方面から圧力を受ける劉副総理の表情には、絶やさない笑みのなかに疲労感が際立っていたが、いま答えられる最大限の内容を、中国の国家指導者にしては率直に、アドリブを交えながら回答していたように思う。

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最終更新:6/4(火) 10:30
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