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丸山穂高議員の「戦争」発言、日ロ交渉に暗雲―佐藤優氏に聞く

5/22(水) 17:04配信

nippon.com

北方領土は戦争をして取り返すしかない――。丸山穂高衆院議員(日本維新の会から除名)のこの発言は、6月に大阪で予定されている安倍・プーチン両首脳の領土交渉にも影響を及ぼしつつある。発言の舞台となった「ビザなし交流」の実情を含め、ロシア問題に精通する佐藤優氏に聞いた。

暴言だけにとどまらない丸山議員の行動

編集部 北方領土をめぐる丸山発言の本質を正確に理解するためにも、まず「ビザなし交流」とはどういうものなのか、佐藤さんの体験も踏まえて説明いただけますか。

佐藤 北方領土に関しては日本とロシアの見解は真っ向から対立しています。ですから、日ロ双方の法的立場の矛盾を詰めないという前提で「ビザなし交流」は成り立っているのです。それだけに、今回のような出来事が起きれば、たちまち崩れてしまいかねない。ガラス細工のような仕組みで成り立っているのです。丸山議員の余りに無謀な発言、さらには心ない行動によって、この仕組みが危機にさらされています。

では、具体的に説明してみましょう。北方領土はロシアが実効支配しています。これに対し、北方領土はロシアに不法占拠されている、これが日本政府の立場です。従って、日本国民が日本政府発行のパスポートを持ち、ロシア政府にビザを発行してもらって、ロシアの管轄に服する形で北方領土に渡航することは望ましくない。自粛してほしいというのが、閣議了解にもあるように日本政府の見解です。

編集部 しかし、それでは元島民の方々は、祖先のお墓参りもできなくなってしまいます。

佐藤 ですから、人道上の配慮から、元島民、国会議員、外務省関係者、メディアなどには特別の手続きで北方領土に渡航できる仕組みを設けたのです。日本人が北方4島を訪れる場合は、パスポートを使わず、身分証明証、それにビザではなく挿入紙を用意することで、ロシア政府の法的な管轄に服していないという形をとって現地を訪れてきました。一方のロシア側は、身分証明書をパスポートと、挿入紙をビザと見なして正規の入国手続きをしているという体裁を取っているわけです。

編集部 今回の丸山発言は、佐藤さんがいう「ガラス細工」の仕組みに、壊滅的といっていい打撃を与えたわけですね。

佐藤 その通りです。この「ビザなし交流」の仕組みを使って、丸山議員は5月11日、北方領土の国後島を訪れました。そして酒を飲んで酔っ払い、「戦争しないと、どうしようもなくないですか」と訪問団の団長に詰め寄ったと報道されています。この発言は、単なる酔っ払いの暴言では済まされません。丸山議員はその後も大声で議論を続け、日ロの決まりに逆らって「友好の家」、通称ムネオハウスの敷地から出ようとしたといいます。関係者の話では、近くにあるロシア女性のいるバーに行こうとしたらしいのです。

編集部 日ロの決まりに反して敷地から出ようとした――。この点はあまり報道されていませんが、何を意味するのでしょうか。

佐藤 敷地から外に出ようとしたという事実には大変深刻な問題が潜んでいます。もし、丸山議員が「友好の家」の外に出て、大声でわめき散らしていたら、監視しているロシア警察当局に身柄を保護され、同じように戦争で領土を取り返すなどといったらどうなるか。当局に逮捕される恐れがあったと思います。ロシアでは、戦争を扇動する振る舞いは法令に違反するとみなされる可能性があります。

編集部 今回はそうした最悪の事態は避けられましたが、日本政府は、原則として、ロシア側の管轄権の行使を認めていませんから、日ロ間で厄介な係争が持ち上がるところでした。

佐藤 日本では戦争を扇動する振る舞いには、法的な責任は生じませんから、身柄の釈放を求めざるを得なくなったでしょう。不本意ながら、暴言を吐いた丸山議員を守らざるを得ない状況に追い込まれたかもしれません。そんなことになれば、ロシア政府はビザなし交流の制度そのものを廃止したり、この6月に大阪で開催されるG20サミットを機に行われる安倍・プーチンの日ロ首脳会談を取りやめたりしたかもしれません。

少なくとも良い影響は全くない。丸山議員は自らがやってしまったことの重大さを今なお理解していないと言わざるを得ません。なぜなら、国会議員の職を辞するつもりがないと強硬な姿勢を崩していないからです。

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最終更新:5/22(水) 17:04
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