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「プレバト!!」の夏井先生が目指す1億2000万人総俳人化計画!――楽しく豊かな人生に俳句の花を

5/24(金) 12:16配信

Wedge

 昨年の大晦日、国民的番組のNHK紅白歌合戦の審査員席に、夏井いつきの姿があった。俳句の世界からの審査員は、1972年の中村汀女(なかむらていじょ)以来46年ぶりの登場。今や全国区の人気者といえる夏井を、人は「あの怖い毒舌の夏井先生」と呼ぶ。“あの”とは、TBS系の全国ネットで放送されている「プレバト!!」というバラエティー番組の、俳句部門の才能査定ランキングのことで、夏井は2013年から先生役を務めている。

 老若男女、昔々に学校の授業で有名な俳人の句を習った記憶だけが残る程度の人までも巻き込む、全国的俳句ブームといわれる昨今。そのうねりを生み出した張本人ともいえる夏井は、放送で俳句を広めた功績で放送文化基金賞も受賞している。

 俳句で腹を抱えて笑い転げるなど、これまではありえないことだった。前代未聞、まさに前人未踏の新天地。夏井は百戦錬磨の芸能人たちの句をバッサバッサと厳しく批評する。本当につまらん一句、幼稚な発想と他愛ない表現、陳腐の極み、キングオブ陳腐……忖度なしの酷評に一瞬強張った芸能人の顔は、何を言いたかったのかを夏井が聞き出して添削を加えていくにつれ、納得の表情に変わる。

 普通、句会といえば俳句に興味があり、俳句のことを知っている人たちが少人数で集い、平等性と匿名性の前提で自由なやりとりを楽しむ遊び。俎上に載せられるのは選ばれた句であり一定以上のレベルのもの。

 「才能なし査定のような句はそもそも上がってこない。だから『プレバト!!』が始まった頃は、何だこりゃ! でした。作者が何を言いたいんだか全くわからない。つまらない発想でもきっと言いたかったことはあったわけですよ。その思いがこの字面で実現できていないのはなぜかを分析して添削するのですが、もう添削すらできない!」

 作品は事前に夏井のもとに届いても、作者が誰かは収録本番まで不明。本番で初めて作者の意図を知り、そういうことだったのかとたまげることもある。

 「俳句の世界でよく使われる言葉を使って事前にこじゃれた形に整えてしまうのは簡単なんです。でも、それと本人の言いたかったことが違っていたら何も納得できないでしょ」

 こうしなさいと説得されても動かないが、なるほどそうかと納得すれば人は動く。目から一つウロコが落ちれば、才能なし査定が2度目の挑戦で才能あり査定になることもある。

 「もうホント大変だけど、実は一番得をしているのは私かもしれないと今では思っています。この仕事のおかげで、あ、助詞ってこんなすごい働きをするのかとか、動詞のニュアンスや口語と文語のニュアンスなど、それまで知っていたつもりで俳句を教えてきたのに、こんな細やかなところを気付かずにいたのかと改めて教えられました」

 17音でここまで奥深い世界を表現できるのか。一つの文字を入れ替えるだけで伝わる波動がここまで変わるのか。視聴者もまた、爆笑し、やがて驚き、そして納得を繰り返しつつ、次第に自分も作ってみようかなという気分になっていく。そんな流れが生まれるのは、夏井の魅力によるところが大きい。名うての芸能人を相手に丁々発止、時にお笑い芸人も真っ青の強烈なアドリブ力、言葉の力だけで爆笑を誘う。

 切っ先鋭く斬り込んでいるようで実は寸止め。毒舌を吐いても、どこか温かい。原形をとどめないほどに添削しても、なぜかやさしい。夏井いつきとはいったい何者? ただ者ではなさそうなのは確かだ。

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最終更新:5/24(金) 12:16
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