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働き方改革の弊害を打破するためには、「二正面作戦」が必要だ

5/24(金) 11:00配信

現代ビジネス

 「働き方改革」がスタートして1カ月を超えた。

 正社員を中心に大きな懸案とされてきた「残業の上限規制」と、非正規の低賃金を是正するカギと言われてきた「同一労働同一賃金」という2大課題に対策を打ち出したとして、「働き方改革」は一定の評価を得ているように見える。

 だがその裏には、労働者保護がなく会社の決定権が肥大化する「名ばかり正社員」の増加へと道を開きかねない危うさが潜んでいる。

「残業をなくす」から「残業を見えなくする」へ

 これまで「正社員」は定年まで無期雇用で、転勤や残業などがあっても1日8時間労働を超えれば残業代が払われて労働時間規制で保護され、ボーナスや退職金や年金があり、勤続を重ねると賃金が上がる「定期昇給」を備えた働き方と考えられてきた。

 若者たちの間に「正社員志向」が強いのは、そうした安定した働き方への期待があるからだ。

 ところがこの10年、どんなに残業してもサービス残業として不払いにされたり、「定期昇給」も「賞与」もなかったりする「名ばかり正社員」が目立つようになってきた。

 たとえば若者労働NPO「POSSE」は2007年に18歳~34歳の既卒者500人を調査し、「正社員」なのに賞与も定期昇給もない働き手が少なからず出てきたことを発見して「周辺的正社員」と名付けている。

 今回の「働き方改革」の柱の「残業の上限規制」には、実は、こうした「名ばかり正社員」を増やしかねない仕組みがいくつも盛り込まれている。

 「改革」を受けて早く帰るよう工夫をする職場が増えたというニュースが相次いで報じられている。それ自体は歓迎すべきことだが、問題は、こうした目に見える「成功例」の影で、サービス残業を「なくす」のではなく、「見えなくなる」仕組みが整えられつつあるということだ。

 日本の労基法では、国際基準に沿って「1日8時間労働」が規定されてきた。労働時間を原則、最長8時間とすることで、睡眠時間や地域や家族と暮らす「生活時間」の確保を目指したものだ。ただ、ここでは労使が協定を結べば例外的に残業をさせてもいいという条項があり、それが抜け穴になって長時間残業が横行してきた。

 こうした中で、今回の「働き方改革」では、月45時間、年360時間までという「健康を壊さない上限」が導入されたが、加えて繁忙期には労使が合意すれば2~6カ月間の平均で月80時間、1カ月で100時間未満まではOKという、労働災害認定で労働と過労死・過労死自殺との因果関係判定に用いられる過労死基準ぎりぎりの上限、つまり「死なない上限」ギリギリまでOKという条文も書き込まれてしまった。

 「最初の一歩としてはしかたないのでは」という意見もあるだろう。だが、本気で8時間労働や「健康を守る上限」に近づけていくつもりなら、「過労死上限」に一定の期限を設け、それをなくす方向を法律で明確化するのが筋ではないだろうか。

 それ以上に問題なのは、高年収で専門的とされる一部の業務には労基法の労働時間規制を基本的に適用しない「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」が導入されたことだ。

 労働時間規制がない、ということは、労働時間をめぐる保護が受けられなくなることを意味する。何時間働いても残業代は出ず、昼休み時間などの権利からも外される。4週間に4日の休日を与える条件がつけられたが、理論的には4週間ぶっ続けで働かせられることもできる。高プロはそういう危険を孕む制度だ。

 こうした批判を受け、対象になる社員に会社は労働時間を指示してはいけないことや、社員の同意が必要なことが加えられた。だが、クビになったら生活できない会社員が会社から達成目標を決められたら、具体的な残業命令などなくても、長時間労働を引き受けて達成するしかない。

 「高年収」で「専門的」が条件なら大丈夫だろう、と思ってしまいがちだが、コンサルタントなどの過労死や過労自死事件が目立っていることからもわかるように、「専門的で高年収」なら長時間労働を断れるわけではない。

 5月5日付産経新聞電子版は、主要企業116社のアンケートで高プロの導入率が1%にとどまり、4割が「導入しない」と回答していることを伝えている。理由として挙げられているのは、「趣旨は理解できるが、サービス残業のリスクが高まる可能性がある」などで、雇う側にも社員の過重労働への懸念が強いことをうかがわせる。

 一方で、この調査では、「当面導入しないが検討課題」とする企業も4割ある。経団連は2005年、ほぼ同じ仕組みの「ホワイトカラーエグゼンプション」に関する提案を発表、対象者について「年収の額が400 万円(又は全労働者の平均給与所得)以上であること」(同年の平均年間給与は437万円:国税庁調べ)と述べている。

 仮にこうした狙いに沿って、今後、業務や年収要件が広げられていくようなことがあれば、導入率が大きく高まることもありうる。

 歯止めとして期待されたのが、EUなどで行われている「勤務間インターバル規制」だった。これは仕事の終了から次の日の始業まで一定の間隔をあけなければならないとする制度で、1日のうちに一定の連続休息時間を必ず確保する制度だ。だが、これも努力義務に終わった。

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最終更新:5/24(金) 11:00
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