ここから本文です

“声を奪われた女性たち”の暗国世界を描く「フェミニストSF」

5/24(金) 7:00配信

Book Bang

 近年いきおい保守化し、国民への管理を強化しつつあるアメリカ、イギリス。両国とも多様性と平等を謳うリベラリズムへの反動から、トランプ政権誕生、EU離脱という世界も国民自身も仰天する事態を迎えた。こうした小説も吃驚の現実への不安と警鐘の意味合いからか、英米ではディストピア小説が根強いブームだ。そこにフェミニズムが合流し、「フェミニストSF」というべきサブジャンルが興隆している。現代社会が抱える性格差の闇を、制度化されたセクシズムを設定して描くものが多い。アトウッドの新古典『侍女の物語』、オルダーマンの『パワー』、ソフィー・マッキントッシュのThe Water Cure(未訳)等々。

『声の物語』も、そうした流れの代表的な一冊だ。超保守政党が政権を掌握した、近未来のアメリカ合衆国が舞台。新しい政令が次々と出され、女性は全員、官職はおろか、あらゆる仕事を禁じられ、家庭に押しこめられる。意見を言うこともできない。少女たちは読み書きを教わることすらできず、初歩の計算を習うのみ。そう、ディストピアの独裁政権は必ずひとの言葉を、言葉を使う自由を奪うのだ、さまざまな手段で。

 料理や買い物のメモすら消えた。手話もいけない。元理論言語学者のダルチャーは、恐ろしい言語抑圧の装置を考案する。女性は手首に「ワードカウンター」を着けられ、一日に百ワード以上の語を発すると、強い電流が流れ発話を制止する。最新型では、冒涜的・卑猥な語を発するたびに、割り当ての語を十ワード減らす「礼節管理機能」もある。

 皮肉にも失語症の研究者であった四人の子どもを持つヒロインは、ある男たちから、専門知識の提供と職務につくことを求められるが……。

 言葉は人を人たらしめているもの。それを封じられれば、人間性は壊疽(えそ)を起こしかねない。かつてアトウッドは舌を切られ生贄にされる娘たちの神話を作中に描いた。あの娘たちは現在も世界のあらゆる場所にいるはずだ。

[レビュアー]鴻巣友季子(翻訳家、エッセイスト)

新潮社 週刊新潮 2019年5月23日号 掲載

新潮社

最終更新:5/24(金) 7:00
Book Bang

記事提供社からのご案内(外部サイト)

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事