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ディオバン事件から学ぶもの

5/26(日) 11:00配信

Japan In-depth

これはスイス本社の方針が影響している。私の個人的な経験をご紹介したい。

2013年10月、不祥事を受けて、スイス本社のデビッド・エプステイン社長が来日し、謝罪の記者会見を開いた。

その前日、彼は東京大学医科学研究所に私を訪ねてきてくれた。私との面談の最中、彼は日本法人の幹部の名前を挙げ、「どのように思うか」と問うた。私は自分の感想を率直に述べた。彼も概ね同じように考えていたようで、「信頼を取り戻すためにはどんなことでもする」と語った。その後、多くの幹部が更迭され、ノ社は販促の方針を一変した。

さらに「不正にカネを得たのが問題なら、返還せねばならない。どうしたらいいかわからないので協力してほしい」と言われた。私は総理官邸の知人に紹介した。ただ、その後、ノ社からカネが戻されたとの話は聞かない。どこで止まったかわからない。

この事件で変わったのは、ノ社だけだったようだ。私が、今回の調査結果をみて、もっとも驚いたのは日本べーリンガーインゲルハイム社が多額のカネを支払っていたことだ。小室教授にいたっては年間に336万3388円だ。

実は同社の青野吉晃社長は、かつてノ社に勤めていた。営業本部長・執行役員としてディオバンの販促に関わった。ディオバン事件のキーパーソンだ。彼は移籍したところでも、同じことを繰り返していたことになる。

日本べーリンガーインゲルハイム社にとって青野氏は有難い存在だったろう。降圧剤の販促のノウハウとネットワークがあるからだ。

同社が保有する降圧剤はテルミサルタン(商品名ミカルディス)だ。バルサルタンと同じくアンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)に分類される薬剤だ。日本べーリンガーインゲルハイム社が製造し、アステラス製薬が販売し、両社で共同販促している。

青野氏が移籍後、ミカルディスの売上は右肩上がりを続けてきた。2010年に約1000億円だった売上は、2015年には1684億円に達する。ミカルディスは2017年に特許が切れて、ジェネリックが発売されるが、それまでドル箱として同社の経営を支えた。ちなみに、その間、ノ社のディオバンの売上は右肩下がりだ。

ディオバン事件の医学的な教訓は、ARBと言う新規降圧薬の効果は、カルシウム拮抗剤という古くて安い降圧剤と変わらないということだった。ところが、多くの臨床医はディオバンの処方は止めたものの、カルシウム拮抗剤やACE阻害剤(ARBと似た古い薬)などのジェネリックには切り替えず、新薬であるミカルディスを処方したことになる。これは純粋に医学的な理由だけでは説明できない。製薬企業の販促が医師の処方に影響したと考えるのが妥当だ。

もっとも、この件について製薬企業や医師がやっていることは違法ではない。製薬企業が医師に講演を依頼し、謝金を支払うのは合法的な営業活動だ。年間に1000万円以上のカネを製薬企業から受け取っている教授たちも、彼らは大学と裁量労働契約を結んでいるので、年間に本俸と同額までしか兼業を認めないなどの医学部などの部局の内規には抵触するものの、大学との契約上はなんら問題はない。

ただ、これは製薬企業と医師の内輪の理屈だ。これでは国民から信頼されない。規制で守られ、税金や保険料で食っている製薬企業や大学教授たちのとるべき態度ではない。

どうすればいいのだろうか。製薬協や大学・学会に多くは期待できない。だからといって、政府による規制強化には賛同できない。大学における学問の自由は先人たちが築き上げてきた財産だ。大学教授たちの振る舞いを縛ることは、学問の国家統制に繋がりかねない。

我々がやるべきことは、情報公開を進め、公で議論することだろう。澤野医師たちの仕事は、その萌芽だ。そのためには、多くの関係者の協力が必要だ。今回の場合、製薬協が情報開示を進め、ワセダクロニクルと我々でデータベースを作成した。そして、それを澤野医師たちが解析し、その結果を米国医師会が掲載した。

これはオープンなやり方だ。澤野医師たちの主張に賛成できない医師や研究者は米国医師会に反論を送ればいい。編集部が意義があると判断すれば誌面やサイトに掲載し、反論を多くの読者が読むことができる。さらに議論が拡がる。こうやって議論を積み重ねれば、やがてコンセンサスが形成される。このような透明なプロセスを経ることは、社会の信頼感を勝ち得る上でも有用だ。製薬企業と医師の関係については、地道に公の場で議論を積み重ねていくしかない。

上昌広(医療ガバナンス研究所 理事長)

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最終更新:5/26(日) 11:00
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