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“新生”ヴィッセル神戸にイニエスタの入り込む余地なし。ベンゲル招聘も疑問、ついに見えた最適解

5/30(木) 10:02配信

フットボールチャンネル

明治安田生命J1リーグ第13節、ヴィッセル神戸対湘南ベルマーレが26日に行われ、ホームの神戸が4-1で快勝。アンドレス・イニエスタがメンバー外、ルーカス・ポドルスキも先発から外れた中で、ダビド・ビジャらが4ゴールを奪った。7連敗中だったヴィッセル神戸は、この勝利によって復調のきっかけを掴んでいる。(取材・文:藤江直人)

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●連敗を7で止めたヴィッセル

 心も身体も打ちのめされ、何度もどん底を味わわされた。それでも必死にファイティングポーズを取り続けた先に、ヴィッセル神戸が白星を手にしていくための最適解がようやく見えてきた。

 ゴールが見逃される世紀の誤審をはね返し、浦和レッズから奇跡の逆転勝利をもぎ取って波に乗っている湘南ベルマーレを、ホームのノエビアスタジアム神戸に迎えた26日の明治安田生命J1リーグ第13節。後半だけで大量4ゴールを奪う快勝劇の余韻が残る取材エリアで、ゲームキャプテンを務めたボランチの山口蛍が残した言葉の数々に、泥沼の連敗を「7」で止めた理由が凝縮されていた。

「前半はそれほど上手くいっていなかったなかで、失点しなかったことが後半につながった。勝ち方も含めて明らかにみんなの自信になったはずなので、さらに伸び伸びとプレーできると思う」

 J1リーグ戦におけるクラブワースト記録を更新する、第6節から第12節までに喫した7連敗の内容をあらためて振り返ってみると、顕著な傾向があることがわかる。前半を無失点に抑えて折り返した試合が、北海道コンサドーレ札幌との第10節しかない点だ。

 残る6試合は前半のうちに、それも最速で10分、最も遅くて31分に失点している。連敗中は攻撃陣を中心にけが人が続出し、開幕前における看板だった“VIPトリオ”(ダビド・ビジャ、アンドレス・イニエスタ、ルーカス・ポドルスキ)が一度もそろい踏みしていない状況下で、先にビハインドを背負えばどうなるのか。山口がこんな言葉を紡いだことがある。

●「自信をもってチャレンジにいける」

「攻撃の形を上手く作れないなかで先に失点してしまうと、どうしてもみんなが落ち込んでしまうというか、気迫というものがなかなか感じられなくなった。僕が声を出しても、もうちょっと応えてくれてもいいんじゃないかと思うくらい、チームとしてすごく難しい状況になってしまう」

 絶対的な拠りどころがないから、何とか押さえ込んできた不安や自信のなさが、失点とともに顔をのぞかせてしまう。ひるがえって、ベルマーレ戦に臨んだヴィッセルの最終ラインは、リーグ戦では初めて4バックから3バックへとスイッチしていた。

 実は22日に行われた、名古屋グランパスとのYBCルヴァンカップ・グループリーグ最終節でも、ヴィッセルは3バックを採用している。試合は1-3で敗れ、公式戦における連敗が9に伸びた。それでもチーム全体としては、ネガティブには受け止めていなかったとFWウェリントンは舞台裏を明かす。

「実際にプレーしていた選手たちは、守備のベースの部分に手応えを感じていた。このシステムで戦う以上は、何が自分たちのストロングポイントになるのかがわかってきた」

 ベルマーレ戦では左から身長186cm体重82kgの宮大樹、187cm82kgの大崎玲央、187cm80kgのダンクレーが3バックを形成した。グランパス戦で右に入った186cm77kgの渡部博文をダンクレーに代えて、高さと強さを兼ね備えた3人を最終ラインに配置した理由を、吉田孝行監督はこう説明する。

「センターバックが3人いることで、各々が守るスペースが狭くなる。加えて、1人がいったとしても残る2人がカバーする状況なので、より自信をもってチャレンジにいけると思う」

●ビジャの「慣れているポジション」

 前線の選手配置も変わっていた。スペイン代表で歴代最多となる、通算59ゴールという肩書きを引っさげて、今シーズンからヴィッセルに加入したFWダビド・ビジャにとっては、タッチラインが視野に入るほど左サイドに張る、慣れ親しんだポジションに戻ったことになる。

 実はセレッソ大阪との開幕戦でも、極端なほど左サイドに張り続けた。そして、右タッチライン際には元ドイツ代表のルーカス・ポドルスキ。中央にはFCバルセロナおよびスペイン代表で一時代を築いたレジェンド、MFアンドレス・イニエスタがいわゆる“ゼロトップ”の形で入る。

 昨秋から指揮を執り、4月17日に電撃辞任したスペイン人の知将、フアン・マヌエル・リージョ前監督が打ち出した、“VIPトリオ”による超攻撃的な布陣。しかし、可能性を感じさせながらもセレッソに完封負けを喫したことで、ビジャは第2節から中央に陣取るようになった。

「セレッソ戦を含めて、これまで何度も左サイドでプレーしてきたし、自分にとっては非常に慣れているポジションだった。監督から求められれば、どこでもプレーするつもりでいる」

 スペイン代表でも、バルセロナをはじめとするヨーロッパのクラブでも、ビジャは左サイドからドリブルでカットインして、利き足の右足でシュートを放つスタイルでゴールを量産してきた。もっとも、セレッソとの開幕戦とは感覚が違ったとベルマーレ戦後に明かしている。

「セレッソ戦よりも自分の周りにスペースがあった。ウェリントン選手が相手のセンターバックを引きつけるいい働きをしてくれたことで、いつもより自由にプレーできたと思っている」

●ウェリントンの脅威

 ベルマーレ戦では前線が3トップ気味となり、中央には身長188cm体重90kgのウェリントンがそびえ立った。2013シーズンの途中から1年半ベルマーレに所属し、2014シーズンにはJ2リーグで2位となる20ゴールをあげたウェリントンの脅威は、当時から指揮を執る曹貴裁(チョウ・キジェ)監督が誰よりもよく理解している。

 それまでの3バックを4バックに変え、身長174cm体重72kgの坂圭祐と187cm82kgのフレイレでセンターバックを形成させたのも、ウェリントンの脅威に対抗するためだろう。果たして、ヴィッセルは前半からウェリントンの高さを生かすようなロングボールを多用した。山口が言う。

「前半はウェリ(ウェリントン)へのロングボールからセカンドを拾えるか、拾えないかのシーンが多かったけど、後半はセカンドボールも拾えるようになり、そこから真ん中、真ん中だけじゃなくて、よりサイドを上手く使えるようになった。ダビ(ビジャ)や、(西)大伍さんが左右にかなり張っていたので上手くはまったし、全体的な距離感を含めて後半の方がはるかによくなった」

 ウェリントンの強さと高さ、そしてポストプレーで味方を生かす上手さに、時間の経過とともに後塵を拝するようになったのだろう。ベルマーレの左右のサイドバック、杉岡大暉と山根視来もカバーのために中へ絞り気味となり、必然的に両サイドにスペースが生じるようになる。

 ベルマーレの左サイド、ヴィッセルから見て右サイドは[4-3-3]の左ウイングに入った野田隆之介が引き気味になり、右アウトサイドの西大伍をケアする役目を負った。それでも綻びが生じてしまったがゆえに、54分には山口とのワンツーから西に右サイドを突破され、ウェリントンの先制ボレーを導く絶妙のクロスを上げられてしまった。

「やっぱりああいう形で、サイドでトライアングルを作って崩せれば一番いいと思う。前半はなかなかそういうのが出なかったけど、後半はいろいろなエリアで1人、2人と絡んだ崩しが見られたと思う」

 山口の言葉通りに73分には、ポッカリとスペースが空いた敵陣の中央でパスを受けた山口がドリブルでもちあがり、ゴール前のウェリントンへパス。これが右足のヒールで絶妙に背後へ流され、以心伝心で走り込んできた三田啓貴が利き足の左足を豪快に振り抜いた。

●「戦うメンタリティーを持ってないといけない」

「練習から彼とはよく話しているんだ。こういう角度や距離のときは、ワンタッチやフリックでコンビネーションを生かそうと、ね。ハーフタイムでもちょうど確認したばかりだったんだ」

 練習の賜物だとウェリントンが胸を張った三田の追加点のわずか2分後には、勝利を決定づける3点目が生まれる。左サイドを2本の縦パスでつなぎ、左に張っていたビジャがカットイン。細かく、なおかつ鋭い振り足から放たれた一撃に、ベルマーレの守護神・秋元陽太は一歩も動けなかった。

 今シーズンから加入した山口や西、外国籍選手枠からあふれる形で燻っていたウェリントンを含めて、ヴィッセルの選手個々の能力の高さとリーグ戦における成績はリンクしているとは言えなかった。それなのに、なぜ第5節以降で7つもの黒星を並べてしまったのか。

「いろいろな意見があるのは当然だと思いますが、ひとつはチームが団結して戦うことができず、少しバラバラだったということ。サッカーはどれだけいい選手がいても、全員が戦うメンタリティーをもって戦わないといけないし、それだけJリーグは非常に難しいリーグだと思う」

 吉田監督がけが人の多さとともにあげた、不振に陥った理由をメンタル面に求めた。以心伝心と言うべきか。山口もどん底に突き落とされたことで、全員の心のなかで化学変化が起こったと振り返る。

「いろいろなことがあって落ちるところまで落ちて、これ以上は悪くならないような状況になって、みんなのなかで『このままじゃダメだ』という責任感ないし自覚が、少しずつ出てきたんじゃないかと思う。これだけ苦しんだなかでの勝利は、いままでとは違うものがあるけど、それがこの試合だけで終わってしまえば意味がない。毎試合、今日のような気持ちで挑みたい」

 ヴィッセルに見えてきた最適解をあらためて紐解けば、先制点を含めた失点を減らす意味でも最終ラインは3バックを継続。前線は相手守備陣へ脅威を与えるウェリントンを中央、ビジャを左に固定し、右は運動量が豊富な三田か、3得点をあげながら故障離脱中の韋駄天、古橋亨梧をすえても面白い。

 となると、中盤は4枚。アウトサイドは左が小川慶治朗や橋本和、右が西と層がやや薄い。左右両方でプレーできる初瀬亮の故障からの復帰が待たれる。

●イニエスタが入り込む余地は見えない

 そして、山口の相棒には前半だけでベンチへ下がったセルジ・サンペールよりも、ベルマーレ戦の後半では両サイドからの攻撃を活発化させたアカデミー育ちの安井拓也が目立った。これでフィールドプレーヤーは10人。ベルマーレ戦の後半途中から復帰したポドルスキも、コンディション不良で2戦連続ベンチ外となったイニエスタも、3バックと3トップを併用する限りは入り込む余地が見えてこない。

 特にベルマーレ以外の相手も嫌がる、ウェリントンへのロングボールを多用。セカンドボールを拾いまくり、サイド攻撃を仕掛けていくスタイルを継続するならば、中央突破を十八番とするキャプテンのイニエスタが完全復帰を果たしても、起用法は大きく限られてくる。ポドルスキはビジャか右サイドの控えとして定着するのではないだろうか。

 負けて連敗を8に伸ばせば、失点次第では最下位へ転落していた正念場で会心の結果を残した吉田監督にとっても、昨秋の実質的な解任から異例の再登板を果たしてから9試合目での初白星。ルヴァンカップも敗退したなかで、これからはプレッシャーも軽減されるなかで采配を振るえるだろう。

 もっとも、ピッチの外では新たな、そして大きな動きも海外から伝わっている。次期監督としてアーセナルを22シーズンにわたって率いた名将、アーセン・ベンゲル氏へオファーを出したという報道が現実のものとなれば、難産の末に見えてきた最適解もまた初期化されるはずだ。

「具体的な動きはないです」

 ベルマーレ戦後にメディアへ対応した、親会社である楽天株式会社の三木谷浩史代表取締役会長兼社長は、同じ言葉を3度繰り返してベンゲル氏の招へいを否定した。しかし、報じているのは1社だけではない。火のない所に煙は立たぬ、とは古今東西でよく言われる。実際、普段は必ず観戦する三浦淳寛スポーツダイレクターは渡欧中とされ、ベルマーレ戦には姿を見せなかった。

 長く暗いトンネルを抜け出した喜びをファンやサポーターと共有し、一方では再び大騒ぎになる予兆ものぞかせながら、ヴィッセルは敵地エコパスタジアムで来月1日に行われるジュビロ磐田戦で連勝をもぎ取るための準備を進めていく。

(取材・文:藤江直人)

【了】

最終更新:5/30(木) 12:04
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