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本当は相手を嫌いなのに「あいつが俺を嫌ってる」と言う心理

5/31(金) 9:15配信

教員養成セミナー

どうして、そんな言動を? ―防衛機制

 中学生の頃、クラスには必ずと言っていいほど勉強ができて社交的で誰からも好かれるようなヒーロー的な人がいました。ソシオメトリックテスト(『教セミ』2018 年12 月号参照)を実施したら、たくさんの人から選択され、ソシオグラムを描くと多くの実線の矢印が集まるような人です。

 でも、人間関係は単純ではありません。皆からは好かれている人でも、自分はどうしても好きになれないということはありませんでしたか? 一挙手一投足がなぜか気に入らない。そこで、そのヒーローには近づかず、一定の距離を保って生活をします。

 ところが、それを友人に気付かれてしまいます。「あいつのこと嫌いなの?」。「うん」と言ってしまうと、「お前は変だ」と言われてしまいそうです。何しろ相手はヒーローですから。とっさに「あいつ、どうも俺のこと嫌いっぽいんだよね」と答えてしまいます。すると、友人は「そうなんだ」とあっさりと納得してくれ、非難されることなく、一件落着。2人の関係があまり良くないらしいことを、周囲はなんとなく察するようになっていくのです。


■ 試験の前に片付けを始めるのも「防衛機制」
 自分が相手を嫌っているにも関わらず、相手が自分を嫌っていると主張する。自分の感情を相手に転嫁すること、これは防衛機制の中の「投射」に該当します。

 「防衛機制」というと難しく聞こえるかもしれません。でも、私たちが日常的に行なっていることです。大学生の皆さんであれば、単位を取るのが難しい科目の試験がある日の前の晩、急に部屋の模様替えをしたり、以前に買った本を読み出したり、友人を誘って飲みに出かけたりしたことはありませんか。これは「逃避」という防衛機制で、試験が思うようにできなかった時のことを想定し、言い訳になることを前もって、積極的にしているのです。

 もっと幼い子どもにも防衛機制は働きます。弟や妹が生まれたとたん、なくなっていたはずの夜尿が再び起こるようになったり、赤ちゃん言葉を使って母親に執拗に甘えだしたりします。これは「退行」という防衛機制です。

 では、なぜ「投射」をしてまで素直に自分の気持ちを言えないのでしょうか。普通に試験勉強をしたほうが良いはずなのに、なぜわざわざ「逃避」をしてしまうのでしょうか。どうして未熟な状態に後戻り(「退行」)してしまうのでしょうか。

 その理由の一つが、「自分が非難されたり否定されたりするのを防ぎ、自分を守りたい」「もっと自分に注目してほしい」という欲望です。もし自分自身が投射をしていることが分かったら、自分の本心は何かを振り返ってみましょう。逃避をしてしまっても、「自信がないから逃避しているんだ」と、どこかに自分を客観的に見られる自分がいれば、まあ良いのではないでしょうか。そしてもし、退行を起こしている子どもを見つけたら、もっと自分のことを見てほしいんだなと、その気持ちを共有してあげてほしいと思います。


■ 「自分」を守る心の動き
 さて、繰り返し「自分」という言葉が出てきました。自分とは何でしょうか。考えたり、悩んだり、頑張って勉強したりしている、「『行動の主体』が自分である」と言われるとそうかもしれません。

 ただ、「自分」とは捉えどころのない存在でもあります。体の中のどこを探しても、自分という部位はありません。幼いときは自分という意識すら明白ではありませんでした。それが、「ハンドリガード(赤ちゃんが自分の手を観察する行為)」や第一反抗期を経て自分というものの存在を知り、それを徐々に豊かなものへと作ってきたのです。だからこそ、自分というものの存在が危うくなったり、他者から否定されてしまうといった危機に陥ることは、何が何でも避けなければなりません。そのための回避動作の一つの現れが防衛機制なのです。


著・監修 古川 聡(国立音楽大学音楽学部教授)
筑波大学大学院心理学研究科博士課程単位所得満期退学。学術博士(筑波大学)。

『月刊教員養成セミナー 2019年7月号』「教育心理入門」より

最終更新:5/31(金) 9:15
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