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『アメリカン・アニマルズ』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

6/2(日) 11:00配信

文春オンライン

 二五年前に『パルプ・フィクション』や『レザボア・ドッグス』を観て以来、タランティーノ監督が好きで、新作を待つのさえ楽しかった。

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 でも……。

 さて、今作は、実話をもとにしたアメリカの犯罪失敗青春喪失映画なのだ。

 舞台はケンタッキー州の大学。冴えない学生ウォーレンとスペンサーは、大学図書館に一二〇〇万ドルの価値の希少本があり、しかも側には司書の老婦人しかいないことを知る。二人は「行動を起こそう!」「人生を特別なものにしよう!」と熱病のように考え始める。友人を誘って四人組を作り、強奪計画を練るが……。

 四人は『レザボア・ドッグス』の真似をし、互いをかっこいい仇名で呼ぶ。彼らの想像の中の犯行は、優雅で不良っぽく、奇妙な優しさも漂わせて、タランティーノ映画の犯罪者そのものだ。その理想の姿と、犯罪が現実になったときの、肉体の無様な震え、素人計画の穴、失敗の連続で雪崩のように破滅していく姿とのギャップが、観客の胸に鈍い衝撃を残す。

 彼らは「司書の老婦人に怖い思いをさせたくない」と思い悩む“善良さ”を持っていた。でも、「犯罪被害者は心身に傷を負う」ことには思い至らないという“鈍感さ”もあった。結果、なんとなく老婦人もわかってくれるような気がし、暴走してしまう。

 主人公達の“繊細だけど、他者に対しての想像力がないから加害者になれる”という人物像こそ、わたしが長年、エンタメ系犯罪映画に期待して、消費し続けたものだった……。

 作品の最後で、実際に被害に遭った老婦人が登場し、自らの経験を語る。わたしは長い長い夢から醒めていく気持ちでそれを聞いた。

 世界的に、ハラスメントの被害者が声を上げる時代になった。「これからあなたは誰の声により耳を傾けるのか?」と問いかけてくる映画なのだと思いました。

INFORMATION

『アメリカン・アニマルズ』(監督 バート・レイトン)
新宿武蔵野館、HTC渋谷ほか全国ロードショー中
http://www.phantom-film.com/americananimals/

桜庭 一樹/週刊文春 2019年6月6日号

最終更新:6/2(日) 11:00
文春オンライン

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