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設計現場で地盤の揺れを想定した「新設計法」が使われない現実

6/2(日) 7:00配信

幻冬舎ゴールドオンライン

想定外の地震被害のたびに変わった耐震基準

■紆余曲折たどった耐震設計の歴史

関東大震災では、佐野の弟子にあたる内藤多仲(たちゅう)が構造を手掛けた日本興業銀行の建物が、ほとんど壊れませんでした。その4年前に制定されていた「市街地建築物法」には、耐震についての規定は何もなかったため、地震の翌年に佐野の「震度法」を用いた耐震規定が導入されます。それが実質的に、世界で初めての耐震基準となりました。

*初めて耐震基準が導入されたときには、水平震度「0・1」が規定されました。当時は材料の安全率が3、地震学者の石本巳四雄が推定した関東大震災の東京本郷の揺れは300ガル程度。建物は壁が多く低層だったので、地盤と建物の揺れはほぼ同じ。ですから、この規定は東京本郷程度の揺れに対して建物の安全を保障するものです。

ところがその後、日本は大戦に突き進みます。戦時下に耐震などとは言っていられません。太平洋戦争下の1944年には「臨時日本標準規格(第532号「建築物の荷重」、第533号「建築物強度計算の基本」)」が導入され、設計の際の地震力が一律に減らされました。

その結果、何が起こったでしょう。同年に起きた東南海地震では、紡績工場の柱を抜いて飛行機工場にした建物が地震でつぶれ、学徒動員されていた多くの若者が犠牲になりました。戦後の1948年には福井地震があり、福井市のほとんどの建物が壊れました。鉄筋コンクリート造だった大和百貨店もつぶれたため、これはマズイということで1950年に建築基準法がつくられ、改めて耐震基準が導入されました。それまでの市街地建築物法は大都市だけに適用される法律でしたが、建築基準法は全国に適用される法律で、そこに明確に耐震基準が書き込まれたのです。

*建築基準法制定時に、地震に対する安全率が3から1.5と半分になったので、逆に水平震度は0.1から0.2と倍になりました。

*1964年の新潟地震では、コンクリートの建物はそう壊れず、液状化の被害が多く出ました。建物が傾いただけだったので、耐震規定は変わりませんでした。

1968年の十勝沖地震では、強いと思われていたコンクリートの函館大学や八戸の図書館が壊れました。そこで、1970年に建設省の新たなプロジェクトが始動、1978年宮城県沖地震でも同様の被害が出たので、1981年から新耐震設計法が建築基準法施行令に規定され使われるようになりました。

それまでは加速度が200ガルの建物の揺れに対して、建物がまったく壊れないという設計法でしたが、新基準では1000ガル程度の建物の揺れに対して、建物は壊れても、人命は損なわないという終局強度型の設計に。一次設計は200ガル、二次設計は1000ガルという、二段構えの構造設計が確立され、現在にも引き継がれています。

前にも書きましたが、気を付けないといけないのは、この揺れは地盤の揺れではなく、建物が壊れなかったときの建物の平均的な揺れだということです。昔と比べ、軟らかい地盤に建つ軟らかい高い建物が増えているので、本当は建物は揺れやすくなっています。設計で考える建物の揺れが同じであれば、考えている地盤の揺れは減っていることにつながります。

また、鉄筋コンクリートの建物では、壁の多い建物では建物はほとんど壊れないことを前提にして設計するのですが、壁の少ないラーメン構造(Rahmenはドイツ語で「枠組み」のこと)では、建物が損傷することによるエネルギーの吸収効果を期待して、建物の空間を残して人命を守る設計をします。前者の壁の多い建物は大地震後も使えますが、後者の壁の少ない建物は継続使用が難しいと思います。でも、同じ「耐震」という言葉が使われています。

壁の多い建物は揺れにくくて、本当に強いんです。熊本地震のとき、震度7を受けたのに、2階建ての西原村役場がびくともしていなかったことを思い出します。北海道地震でも、震度7だった場所の住宅は壁が多かったので、ほとんど被害がありませんでした。

*私は設計関係者を相手にした講演でよく「スリット入れてラーメンはダメ」と言います。ラーメンは、柱や梁で骨組みをつくる架構のこと。スリットは柱と壁との間の隙間のことです。ラーメン構造で設計するとき、柱と壁がくっついていると計算プログラムでは、柱と見なしにくくなり、計算が面倒になります。そこで柱と壁の間に隙間をつくることがあるのですが、建物が柔らかくなる結果として、想定する地盤の揺れを過少評価したり、建物の強度の実力を下げていたりすると思います。

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最終更新:6/2(日) 7:00
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