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高額のがん最新治療薬 実際に患者が払うのはいくら?

6/3(月) 7:04配信

FRIDAY

「がん免疫療法や分子標的薬など、年々新しい治療薬が開発されています。がん治療の選択肢が増えてきたのはありがたいことです。ただその一方で、いざ自分や家族にその治療が必要になったときに、薬の費用をちゃんと払い続けられるか不安です」

「最新がん治療」で使われている薬の値段

筆者はこれまで多くのがん専門医や患者本人に取材してきたが、最近、よく耳にするのは、冒頭のような高額治療薬への期待と不安が入り交じった声である。

5月22日に白血病の新薬『キムリア』の保険適用が始まった。厚労省によって決められた同薬の価格は、なんと3349万3407円。1回あたりの薬の価格としては国内最高額になる。

『キムリア』は他に治療法がない難治性の白血病と悪性リンパ腫に有効な薬剤。最新の免疫治療である「CAR-T細胞療法」に用いられ、米国では2年前から先行して治療が始まっていた。従来の抗がん剤では考えられない劇的な治療効果が現れることから、大きな期待が持たれている治療法である。

3000万円超の高額な治療薬。その値段を聞いて、尻込みする向きもあるかもしれない。だが、患者が実際に支払うのはこの額面通りの費用ではないのだ。

がんの免疫治療に詳しいビオセラクリニック(東京・新宿)の院長・谷川啓司氏(55)はこう語る。

「『キムリア』の額だけみれば、まるで“セレブ限定“の治療薬のように感じますが、実際はそうではありません。『高額療養費制度』を使うことで、負担額をかなり抑えることができる。この『高額療養費制度』とは、多額の医療費がかかったときでも所得や年齢に応じて月ごとの自己負担額が軽減される制度のこと。たとえば、世帯年収が約370万円~770万円の人の場合、『キムリア』の薬代は約41万円になります。しかも、『キムリア』が患者に投与されるのは一回だけ。それを考えると、他の薬を使い続けるよりも安く済む可能性もあるんです」

では、他のがん治療薬に目を転じると、その価格はどうなっているのだろうか。『キムリア』と同様に高額治療薬としても知られる『オプジーボ』を例にとってみよう。これまで『オプジーボ』は、各患者の体重によって投与量が算出されてきた。だが、昨年の薬価改定によって身体の大きさに関係なく一律240mgになったのだ。このように、薬価改定に合わせて、患者への投与量が変更されるケースもある。

現在、『オプジーボ』で保険適用となっているがんは悪性黒色腫や非小細胞肺がん、腎細胞がんなど7種類に及ぶ。さらに食道がん、肝細胞がん、小細胞肺がんの3つが申請中で、認可されれば10種類まで増えることになる。

『オプジーボ』の治療は2週間に1回の点滴投与が基本で、1ヵ月当たりの薬価は約82万円。医療保険によって患者は3割負担となるので、月ごとにかかる費用は約25万円となる。世帯収入が約370万円~770万円の患者なら、実際は高額療養費制度で月8万円程度の負担額になる計算だ。『オプジーボ』を用いた治療は3ヵ月に1度の検査で腫瘍の縮小効果が出ている限り継続される。

それだけではない。1年間で3ヵ月以上高額療養費の支給を受けると、なんと4ヵ月目からは自己負担上限額が減額されることになっているのだ。そうなると、患者の負担は月4万4400円ほどになる。さらに『オプジーボ』は、当初よりも価格がどんどん下がってきている。今後、患者の負担がより軽減されていく可能性もあるだろう。

次に、大腸がんや非小細胞肺がん、乳がん、卵巣がん、悪性脳腫瘍などに使われている分子標的薬の『アバスチン』で見てみよう。がん細胞は新しい血管を作り、そこから栄養を取ることで増殖していく。『アバスチン』はその新たに血管を作る作用をブロックすることでがんの増殖や転移を防ぐ作用を持つ薬だ。谷川医師はこう続ける。

「たとえば大腸がんでは、手術ができない進行がんの治療に抗がん剤と『アバスチン』が使われています。『アバスチン』を使ったある男性の患者さんのケースでは、1ヵ月の薬代は約19万円。保険料3割負担でおよそ5万7000円がかかった。この治療を2ヵ月行ったところがんが縮小したので、腹腔鏡手術を受けられるようになった。結果として、この患者さんは『アバスチン』の薬代の他に入院費や術前の検査費、手術代、鎮痛薬費などの薬代がかかったことになります」

『アバスチン』は点滴によって投与されるが、同じ分子標的薬には内服薬もある。たとえば『タルセバ』は、遺伝子検査によって『EGFR』という遺伝子に異常が見つかった非小細胞肺がんやすい臓がんの中で、再発や手術ができないケースに使用されている錠剤だ。

「『タルセバ』の一錠の価格は1万643円。飲み薬としてはかなり高額な部類に入ります。この薬は1日1回、毎日内服するものなので、1ヵ月で約32万円になる。その3割負担なら約9万5000円。これも効果がなくなるか、副作用で継続できなくなるまで使用するタイプの薬です。患者さんの中には1年以上にわたって飲み続けている方もいます。分子標的治療薬や抗がん剤は、『キムリア』より単価が安くても、3ヵ月、半年、1年……とずっと治療を続けなければならないことが多い。毎月その治療費を捻出していくとなると、患者さんにとっては結構な負担となるものなんですよ」(前出・谷川医師)

今回注目を集めた『キムリア』や『オプジーボ』だけでなく、今後はさらに免疫チェックポイント阻害剤や分子標的薬の新薬が増えていくだろう。日本の保険制度は、誰でも最先端の医療を受けられるシステムになっている。何よりも正しい情報を得ることが重要なのだ。

取材・構成:青木直美(医療ジャーナリスト)

『FRIDAY』2019年6月7日号より

最終更新:6/3(月) 7:04
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