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映画『二宮金次郎』:薪を背負って「歩き読み」した少年はその後どうなった?

6/4(火) 11:32配信

nippon.com

薪を背負って歩きながら本を読む姿がおなじみの二宮金次郎(尊徳)。しかし大人になって何を成した人物なのかは必ずしも知られていない。その生涯と思想について意外ともいえる発見をさせてくれるのが、6月1日から東京都写真美術館ほかで公開の映画『二宮金次郎』。五十嵐匠監督が熟練のキャスト・スタッフとともに丹念かつドラマティックに描いた本格派時代劇だ。

歴史上の偉人たちには、ほとんどと言っていいほど、子供時代の独特なエピソードがある。「栴檀(せんだん)は双葉より芳し」という言葉があるように、偉業を成す人物は幼少の時から何かしら異彩を放っていて当然なのだが、仮に後の姿に結びつかない凡庸な少年(少女)だったとしても、そのこと自体がストーリーになる。その場合、あるとき電撃的な出来事や出会いがあって、あるいはその反対に、目立たない小さな努力の積み重ねがあって、将来のあの功績へとつながった、という風に語られるのだ。

その点、二宮金次郎は少し様相が異なる。たいていの日本人なら、子供時代のくわしい逸話はさておき、薪を背負って歩く間も惜しんで本を読み勉学に励んだ人だろう、ということくらいは知っている。何より全国各地に建てられた像によるイメージのインパクトが大きい。では一体、その努力がどんな風に実って、将来、何につながったのか…、誰もが正確に答えられるわけではなさそうだ。それは、かなり残念なことではないだろうか。

この映画を見れば、おそらく少なからぬ日本人が思いがけない発見をするに違いない。金次郎少年の孝行や勤勉といった従来のストーリーをもっと遠くへ押し進め、成人した二宮尊徳が人々の心をいかにつかみ、コミュニティーをどうダイナミックに動かしていったかが再現される。そこには、倹約と勤労を奨励しながら、精神論だけでなく、現代に通じる功利的な手法も大胆に取り入れていく、骨太の経営者の姿が見えてくるだろう。

もしかすると教育映画のような印象を与えるかもしれないが、堅苦しさや説教臭さはなく、ドラマ仕掛けの面白さにあふれた良質な、正統派の時代劇だ。金次郎を演じた合田雅吏と妻役の田中美里の生真面目さに加え、柳沢慎吾、田中泯、犬山ヴィーノといった脇を固める個性派キャストの存在感、それを生かした丁寧な演出が光る。二宮金次郎に対する尊敬、人間と労働の賛美、さらには映画化への熱意など、どれもいまどき珍しいほど純な清涼感を放っている。

文=松本 卓也(ニッポンドットコム多言語部)

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最終更新:6/5(水) 17:55
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