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医薬品開発の裏で起きている、生物資源を巡る新たな「植民地主義」の実態

6/4(火) 18:11配信

WIRED.jp

先進国で使われる抗生物質や抗がん剤、ワクチンは、発展途上国で集められたサンプルや原料がもとになっていることも多い。だが、完成した医薬品から生まれる富が素材の提供国に還元されることは少ないどころか、薬が提供国で手に入らないことすらある。そんなバイオプロスペクティング(生物資源探査)時代の新たな植民地主義は改めるべきではないか──。医療ジャーナリストのマリーン・マッケーナによる考察。

「資源の搾取」を繰り返してはならない

西アフリカで2014年にエボラ出血熱の大流行が発生した際、医療従事者たちは患者や感染が疑われる人から数十万人分の血液サンプルを集めた。それはすべて、11,000人以上の命を奪うことになった大流行を止めるためだった。

流行の収束後、サンプルのほとんどは破棄されたはずだった。ところが、英紙『テレグラフ』の報道によると、その数千ものサンプルは破棄されることなく、西アフリカから国外へと運び出されたという。サンプルの現在の所在は明らかになっておらず、テレグラフの情報開示請求は英国政府により却下されている。だが、欧米の国家保健機関および製薬会社の管理下にある可能性があると考えられている。

サンプルが国外に持ち出された事実は、スキャンダルに発展しつつある。欧米諸国がこれらの素材をもとに診断法や治療法を確立した場合、そうした製品はサンプルの採取地では入手不可能なほど高価になる可能性があるからだ。

サンプル提供国に成果が還元されない新薬開発

発展途上国は以前から、先進国の政府と企業は途上国の生物資源にも対価を支払うべきだと抗議を続けてきた。対価が支払われないこうした慣行を、途上国の人々は、バイオプロスペクティング(生物資源探査)の時代における新たな植民地主義だとみているのだ。

先進国はいま、かつて収奪していた貴金属や木材、鉱物資源のかわりに、微生物などの生物資源を採取している。こうした行為に対する途上国の抗議は一顧だにされないことが多い。しかし少数ながら、発達しつつある国際的ルールを根拠として、もてる国々に資源を奪われたと主張する国々が反撃に転じ、勝利を収めたケースもある。

例えば2007年、インドネシアは鳥インフルエンザH5N1株(当時は致死率50パーセントを超えていた)のサンプルを国外の研究所ネットワークに提供することを拒んだ。オーストラリアのある企業がインドネシアのインフルエンザウイルス株を無断で入手し、試験用ワクチンを開発したことをインドネシア保健相が知り、抗議のためにサンプルの提供を停止したのだ。このワクチンがインドネシアで入手できなくなることを危惧しての行動だった。

こうした懸念が現実のものであることを示したのが、インフルエンザワクチンを巡る2度目の衝突だ。09年、異なるウイルス株のH1N1が世界的大流行を引き起こし、以前と同じくワクチン開発競争が巻き起こった。しかしまもなく、ウイルス株の発祥地である環太平洋諸国には、ワクチンを入手できる見込みはほとんどないことが判明した。製薬会社が本社を置く裕福な欧米諸国からの先行注文が、新ワクチンの供給を独占してしまったのだ。

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最終更新:6/4(火) 18:11
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