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中国の遺伝子編集ベビー、短命のリスクも、研究

6/5(水) 17:13配信

ナショナル ジオグラフィック日本版

利益どころか悪影響を与える恐れ、世界に衝撃を与えた中国人科学者の「愚行」

 2018年11月、中国の研究者、賀建奎(フー・ジェンクイ)氏が世界で初めて、CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)と呼ばれるゲノム編集技術を使ってDNAを編集した双子女児の誕生を発表し、世界に衝撃が走った。賀氏は、エイズウイルス(HIV)の感染リスクを下げるためだったとしているが、発表されたとたん、人間に対して遺伝子操作技術を使うことへの倫理的・医学的論争に火が付いた。

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 そして今度は、このゲノム編集によって双子の寿命が縮められてしまったかもしれないという研究結果が発表された。

 米カリフォルニア大学の研究者らが英国の遺伝子データベースを分析したところ、賀氏が双子のDNAに加えた改変とよく似た遺伝子型の人は、そうでない人と比べて、76歳になる前に死亡する確率が平均して21%高いことがわかったのだ。この研究は、6月3日付けで学術誌「Nature Medicine」に発表された。

 論文の共著者でカリフォルニア大学バークレー校の生物学者であるラスムス・ニールセン氏は、「ひとつの遺伝子が変わった影響はひとつだけと考えがちですが、実際には複数の影響をもたらす場合があります。人間の遺伝子を編集する場合、検討すべきことは山のようにあり、その結果を予測するのは困難であるという点も非常に重要です。ある状況で有利となる遺伝子型が、別の状況では逆に不利になることもあるのです」と話す。

医学的に必要ない措置

 2018年の公式発表で賀氏は、エイズウイルスへの耐性をつけるために、CCR5をつくる遺伝子を編集したと言った。CCR5は免疫細胞の表面の受容体で、免疫システムの働きに重要な役割を担っている。エイズウイルスが免疫細胞に感染するときに結び付く受容体だ。

 このCCR5遺伝子に、Δ(デルタ)32と呼ばれる型がある。正常な遺伝子と比べて塩基が32対欠けており、基本的に壊れている。そのため、この遺伝子型の人はエイズウイルスに感染しないと考えられている。

 だが、エイズの治療は既に長いこと研究され、成果をあげている。したがって、多くの専門家は賀氏の措置が医学的に必要ないと指摘していた。しかも、CCR5-Δ32型は他の病原体に感染しやすく、別のリスクを生み出すという。例えば、2015年の研究では、CCR5-Δ32を持っている人は、インフルエンザで死亡する確率が4倍近く高まることが示された。

 賀氏の作り出した変異は、Δ32とは完全に同一ではなく、似たような形になるようにCCR5を破壊したとみられる。これがどう影響するのかを詳しく探ろうと、ニールセン氏とバークレー校の博士研究員である魏馨竹(ウェイ・シンジュ)氏はDNAデータベース「UKバイオバンク」に登録されている41万人近いボランティアのゲノムを分析した。すると、CCR5-Δ32の遺伝子型の人は、76歳になる前に死亡するリスクがそうでない人に比べて3~46%、平均すると21%高いことが明らかになった。

 ただし、DNAのデータベースは地理的に偏っているため、この結果を拡大解釈すべきではないと、2人は断っている。今回の研究は中国ではなく、英国のボランティアが提供したゲノムに基づいている。賀氏が双子の実験の正当性を主張するために用いた研究も同様で、CCR5-Δ32のエイズウイルスへの耐性は、東アジアではなくヨーロッパ人を対象にしていた。

「遺伝子型の違いによってもたらされる影響は、遺伝的背景や環境によって変わるということをはっきりさせておきたいです。東アジア人への影響に関して推測できるだけの情報を、私たちは持っていません」と、論文の筆頭著者である魏氏はメールで書いている。

 賀氏の研究によって持ち上がった倫理の問題は、新たな研究結果で再び注目を浴びることになりそうだ。賀氏の研究が発表される以前も以後も、次の世代に遺伝するようなヒトゲノム編集を行わないよう、世界中の研究者がモラトリアムを求めてきた。中国の著名な生物倫理学者数人が2019年5月、学術誌「Nature」に意見文を寄稿して賀氏を非難し、中国は研究倫理政策を見直すべきであると主張した。1月に、賀氏は中国深セン市にある南方科技大学を解雇された。

 しかし、CRISPRが医学にもたらす革新的な可能性が損なわれてはいけないとも研究者らは指摘する。治療で操作される遺伝子の多くは、子孫に受け継がれるわけではない。例えば、遺伝性の病気を治療するために、患者の臓器から細胞を取り出してその遺伝子を修復し、体へ戻す。同様に、エイズウイルスに感染している患者のCCR5遺伝子を編集して、ウイルスへの耐性をつける治療もすでに行われている。

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