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郷ひろみ104枚目のシングルが「お嫁サンバ」の衝撃と異なるところ――近田春夫の考えるヒット

6/5(水) 11:12配信

文春オンライン

『JAN JAN JAPANESE』(郷ひろみ)/『Rain』(亀梨和也)



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『お嫁サンバ』を初めて聴いた時の衝撃! が忘られぬ。

 それは東京で夜分にラジオの仕事を終え、その足で伊豆のスタジオにレコーディングに向かう車中のこと。丁度シャボテン公園のあたりを走っていると、ラジオから突然、曲紹介の前振りもなく郷ひろみの声が流れてきたのである。

 ♪恋する女は綺麗さ に始まる、♪あの町この町 日が暮れて~……という展開に、コミカルというのともシュールというのとも違う。ただ、一瞬、頭の片隅に、野口雨情作詞のあの童謡が浮かんだこともあって、何か不思議な情景を呼び起こされたのだった。

 全体で見渡せば、いってみれば“ナンセンス”と呼んで差し支えない内容なのだが、耳に入ってくる一行一行が、その都度何か暗示的であったり、あるいは地口的な面白さを持っていたりして、意味というか味わいがある。では作者の三浦徳子がそこまで諸々計算して歌詞を書いていたのだろうかというと、なんだか――タイトルひとつにしても――思いつき/勢いだけでやっつけてしまった感なきにしもあらずで、それも含め、如何な根拠のもとに、事務所が最終オッケーを出したのか、皆目見当がつかない(笑)。

「ウーム、一体どういうつもりで売り出されたのか……?」

 当時の郷ひろみという歌手のポジションなどから考えてみても、まさに「ミステリー」な部分の多いリリースだった。そしてその“計り知れなさのようなもの”こそが『お嫁サンバ』のビッグヒットの何よりの要因である! と俺はそう常々思ってきたものである。

 そういった文脈で捉えると『JAN JAN JAPANESE』も、ある種変わった曲(企画モノ)という点では『お嫁サンバ』と共通する部分もあるかとは思う。が、この新曲では、一回聴いただけで、制作に至る経緯/戦略等が、分かりやすく我々に伝わって来るだろう。まず着地点/目的がありきで、そこに向かって作られていったのに違いないこと――制作意図――が読めてしまう?

「会議でどんなことが話し合われた結果の発注なのか、割とすぐ想像がつく」のである。

『JAN JAN JAPANESE』に謎なところは見当たらない。そこが『お嫁サンバ』とは大いに異なるのだ。

 まぁ、今の時代の歌謡曲やjpopに「なんか訳わかんないけど、面白い!」といったことを期待する方が間違いだといわれれば返すコトバもないが、それにしても最近とみに――この曲もそうだった――感じてしまうのが、いわゆる市場調査的なものの楽曲を支配する力の強さだ。データを解析しては効果的な要素をアレもコレも! ということになってしまうのもわからないではないが、なればそれこそ『お嫁サンバ』に負けず、聴き手が「コレなーんも考えてねェ」と思いこんでしまうぐらいにまで、コンセプトは固めて欲しかったかも……。

 亀梨和也。

 そこはかとなく歌唱に漂うビジュアル系の気配。案外こういうの似合うんだねぇ……。

※お嫁サンバ 作詞:三浦徳子 作曲:小杉保夫

ちかだはるお/1951年東京都生まれ。ミュージシャン。現在、バンド「活躍中」や、DJのOMBとのユニット「LUNASUN」で活動中。近著に『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)。近作にソロアルバム『超冗談だから』、ベストアルバム『近田春夫ベスト~世界で一番いけない男』(ともにビクター)がある。

近田 春夫/週刊文春 2019年6月6日号

最終更新:6/5(水) 11:12
文春オンライン

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