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技術にデザイン連結 新型特急は「走るショールーム」

6/7(金) 7:47配信

NIKKEI STYLE

国内の鉄道で、新型車両が投入ラッシュだ。西武鉄道や小田急電鉄などが個性的な特急車両を走らせている。これまでの概念に縛られないデザインは、世界的な著名デザイナーの手によるものだ。車両メーカーなどが技術を結集し、高難度な設計をかたちにした。スピードや安全という競争軸に、デザインという新たな路線を加え、鉄道ニッポンをアピールする。
3月に運行を始めた西武鉄道の新型車両「Laview(ラビュー、001系)」に乗客が押し寄せている。丸みを帯びた先頭車両に曲面ガラスがはめ込まれ、銀色に輝くボディー。特急の乗車率は前年と比べて休日が6~7割、平日でも3~4割高まった。
今までに見たことがない車両……。
西武鉄道がこう打診したのが、世界的な建築デザイナーの妹島和世氏だ。金沢21世紀美術館(金沢市)などの設計で知られ、建築業界のノーベル賞といわれるプリツカー賞の受賞歴を持つ。「鉄道の監修経験がないことも決め手のひとつ」(西武鉄道の車両部の牛塚勝也主任)と、数百人の候補から選んだ。

■曲面のガラス、景色が映る塗装

2015年12月から設計が始まり、日立製作所の笠戸事業所(山口県下松市)が製造した。妹島氏が描いたのが、都市と自然それぞれの風景に溶け込み、柔らかい印象を与えるデザインだ。
運転席を覆う半径1.5メートルの曲面のガラスはその象徴で、ラビューの存在感を際立たせ、技術力が発揮されたパーツだ。国内でも例をみないカーブのガラスで、AGCが供給する。板状のガラスに熱を加えて、いったん水あめのような硬さにし、美しいラインに仕上げた。「シワにならないよう、中央や縁など場所によって加工温度を変えた」(AGC)と工芸品のような製法を駆使した。
ここで行き詰まったのがワイパーだ。国産メーカーの製品では対応できず、イタリアの車両製造会社を買収した日立の調達力が生かされた。「フランスまで足を運んだ」(同事業所車両プロジェクト設計部の植木直治担当部長)。現地にガラスを持ち込み、性能や耐久試験を重ねた。
「デザインと技術が最もせめぎ合ったのが、ボディーの塗装だ」(日立の谷井靖典主任技師)。通勤車両などではアルミをそのまま生かすが「周りの景色がほんわか映るようにしたい」(妹島氏)という難問を突きつけられた。
数百種類という塗料を試し、自動車のホイールに使う大日本塗料の製品に行き着いた。この塗料はマイクロ(百万分の1)メートル単位の高級アルミ粒子の向きをそろえることで、滑らかに輝く。ラビューは10層程度重ね塗りし、独特の風合いにした。
見た目だけでなく、省エネ技術も磨かれた。ラビューは約25年前に投入した日立製の「ニューレッドアロー(10000系)の後継だが、消費電力を約6割削減した。インバーター装置など最新の電気品が支えている。
デザインは性能アップの一翼を担う。小田急電鉄は18年から特急電車「ロマンスカー」で、新型車両「GSE(70000形)」を運行する。建築家の岡部憲明氏がデザインし、車両製造は日本車両製造が担当した。眺望の良さや開放感を全面に出し、デザインと機能性を両立させている。
車両の下を覆う「エアインテーク」と呼ぶカバーもそのひとつだ。制御装置を冷却するのに「車速の30%以上の走行風を通す必要があった」(小田急電鉄の津村哲広課長代理)。風を通しやすい吸気口を備えたデザインにして、床下機器の温度上昇を抑えている。
台車、動揺防止制御装置といった足回りも進化している。初採用となった日本車両製の台車「NSシリーズ」は、溶接が少なく、空気バネを使い縦揺れを大きく和らげる役割を果たす。「乗り心地への要求が高まっている」(津村課長代理)
鉄道業界が著名デザイナーを頼りとするのは、車内空間をあわせて車両の総合的な魅力を高めるためだ。スピードや輸送能力だけでは、もう競えない。どう心地良い乗車体験を楽しんでもらうか。鉄道が向かう先に、新たな価値が求められている。

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最終更新:6/7(金) 12:15
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