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映画史からNetflix問題を考える:その3 映画の未来は観客、または視聴者が決める【松崎健夫の映画ビジネス考】

6/7(金) 20:05配信

FINDERS

6月1日、映画館の一般料金が26年ぶりに改定され、一部劇場では料金が“値上げ”となった。これにより、大手シネコンでは1800円だった一般料金が1900円に。この経緯を朝日新聞は、5月31日夕刊の一面で大きく取り上げていた。前回の連載で「劇場公開を意図した作品とインターネットでのストリーミング配信を優先させた作品とでは、そもそも収益構造が異なる」ことを指摘したが、このことは、今回の値上げにも少なからず関係している。値上げ分に関しては「消費税の増税を10月に迎えるにあたっての対策」との考え方もあるが、本当にそれだけなのだろうか?

今回は、「映画史からNetflix問題を考える」その3と題して、ネット配信を中心とした映画をハリウッドの映画人の多くが、なぜ“映画”とは呼ばないのか?ということを「興行」という視点から解説。映画の未来についても考えてゆく。

映画の一般料金はこれからも値上げされる

「映画料金は高い」という声を筆者もよく耳にする。日本の映画料金が本当に高いのか否かという議論に関しては、また別の機会に解説したいので、ご興味ある方はアップリンク代表の浅井隆さんが、自身のnoteにて劇場経営側からの視点で考察した「日本の映画チケット代は、世界と比べて本当に高いのか? 消費税増税を控えて考えてみる。」をぜひ参照頂きたい。

意外に思われるかもしれないが、2018年の映画館の平均入場料金は1315円だった。これは、シニア料金が摘要される観客層が興行を支えていること、また、サービスデイやレイトショー、ムビチケなどの前売券による割引を利用している観客が一定数いることを表している。しかし確かなことは、何年か後、あるいは、何十年か後、いずれ映画料金はさらに値上がりするということだ。劇場を経営する側は口を揃えて「設備投資に対する負担の増加」を値上げの理由に挙げているからだ。

2010年代になって、全国の映画館はデジタル化の波にさらされてきた。それまで、上映館それぞれのためにフィルムを1本ずつ作成していた上映システムは、デジタル化された上映素材をプロジェクターで上映するシステムに変化。そのための設備投資は各映画館が負担してきたという経緯がある。さらに近年は、壁一面がスクリーンとなるIMAXやScreenXのような大画面や高音質なサラウンドシステムを導入することで、映画館でしか味わえない臨場感を謳い文句にさらなる集客を狙ってきた。

日本でも156億円の興行収入を稼いだ映画『アバター』(09)の大ヒットは、全国の映画館に3D上映を普及させた功績があるが、3D上映を可能にする上映設備もまた各映画館が負担してきたものだ。つまり、新たな上映方式が生まれる度に設備投資が必要となり、劇場を経営する側にとっては「値上げ」に頼らざるを得ない状況にあるのだ。

かつて、映画館には1000席以上のキャパシティを持つ大劇場が存在した。例えば、2014年に閉館した新宿ミラノ座には1288席、2003年に閉館した渋谷パンテオンには1119席あった。また地方の映画館でも、2006年に閉館した大阪のスバル座(505席)、2015年に閉館した姫路の大劇シネマ(606席)など500席を超える映画館は全国に点在。1980年代になってからは、100~300席のミニシアターがブームとなったのだが、実は、シネコンのキャパシティは基本的に90席~400席のスクリーンに分かれている施設が多い。ひとつのスクリーン当たりの座席が、ミニシアター並になっていることは、設備投資に対する負担が大きくなる理由のひとつでもある。3Dで映画を観る場合、<3D上映料金>として上乗せされているが、それでも映画館の経営は困難である場合が多いという実情があるのだ。

ある意味で言うと、映画料金が1900円だからこそ、「映画館での上映を意図しないインターネットでのストリーミング配信を基本とした映画」の価値がある。つまり、定額の視聴料金によって「新作を安価で観られる」という価値は、「映画館で新作を観るには1900円払わなければならない」という対象があるからこそなのである。

例えば、Netflixで『ROMA/ローマ』(18)が劇場公開に先駆けて配信された時、作品を観た視聴者の評価の中には「アカデミー賞候補になるような映画がいち早く観れた」という喜びの声と同時に「こんな素晴らしい作品が映画館で上映されないなんて」という嘆きの声が一定数存在していた。

それゆえ、映画館での興行が衰退した時、果たして「映画館での上映を意図しないインターネットでのストリーミング配信を基本とした映画」は、現在と同様の価値があるのだろうか。筆者の疑問は、その点にある。

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最終更新:6/7(金) 20:05
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