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幻冬舎・見城徹社長の実売部数公表、結局なにが問題だった?

6/10(月) 10:15配信

週刊金曜日

文芸書を中心にベストセラーを多数生み出してきた出版社として知られる「幻冬舎」(東京都渋谷区)の見城徹社長が、自社から発行してきた作家・津原泰水氏の著書の実売部数をツイッターで公表(5月16日深夜)したことからインターネット上で“炎上”を引き起こした一件は、1週間後の23日に幻冬舎が公式サイトで「お詫び」を公表する事態に発展した。

 発端は今年1月、津原氏が幻冬舎から文庫化の予定で作業が進行中だった自作『ヒッキーヒッキーシェイク』の刊行について、担当編集者より突然「諦めざるを得ない」という趣旨のメールが届いた時点に遡る。幻冬舎より昨年刊行されてベストセラーとなった百田尚樹氏の『日本国紀』について、津原氏が「ウェブからのコピペに満ちた自国礼賛本」などとネット上で批判したことに同社内から「販売のモチベーションを下げている者の著作に営業部は協力できない」との声が上がった、というのがその理由らしい。この経緯を報告した津原氏のツイートを5月半ばに『毎日新聞』などが報じ、そこに幻冬舎側の「文庫化を一方的に中止した事実はない」とのコメントも紹介されるようになる中、津原氏はさらに担当編集者とのやり取りの一部始終を詳細に公表した。 これにたまりかねたか、見城氏が自らのツイッターアカウントで津原氏の幻冬舎から出た著作(文庫化以前の単行本)について「僕は出版を躊躇いましたが担当者の熱い想いに負けてOKを出しました。初版〇部、実売△部も行きませんでした」(伏字部分は実数)と、数字を暴露する形で反論。そこに作家の高橋源一郎氏による「見城さん、出版社のトップとして、これはないよ」などの批判ツイートが続出したことから、騒動に一気に火がついた。見城氏は17日には当該ツイートを削除のうえアカウント上で謝罪。19日にはツイッターへの投稿を今後は停止することも宣言した。

【出版社にとっての「自殺行為」】

 見城氏、および前記の幻冬舎による「お詫び」も「部数を公表したというミスを起こしてしまいました」と認めた。高橋氏を含む作家からも、そこを批判する意見のほうがネットでは目立っている。ただ、一方で実売部数暴露について「そんなに批判されるべきことか」との疑問の声が上がっていることも事実だ。確かに法的または業界ルール上にこうした行為を罰する規定があるわけでもない。

 むしろ問題は、出版社の社長が「ウチのベストセラーを批判するお前の本を出すわけにはいかない」との理由で既に進んでいた本の刊行話をキャンセルし、かつその際に「お前の本はこんなに売れてない」と言わんばかりに数字を暴露したことだ。かつて角川書店の敏腕編集者として鳴らした時代から書き手と編集者との関係性の重要さをインタビュー等でもよく語っていた見城氏にしては軽率な行為ではなかったか。

 もう一つは津原氏の『日本国紀』への批判を理由に自著の刊行を取り下げられたとの具体的な指摘に対し、幻冬舎側が先の「お詫び」に至るまでまったく答えていないことだ。自社のスタンスはどうあれ途中の「出版ドタキャン」は信義にもとる行為にほかならない。

 さらにこれは「出版」の根幹にも関わる問題でもある。幻冬舎に限らず、どの版元も出版する書籍の多くは大きな利益につながらず赤字の本も多い中を少数のベストセラー作品の利益で補うことで、さまざまな意見や表現を世に送り出す「出版の多様性」を確保してきた(また、そこから新たなベストセラーが生まれた)。あるいは見城氏のツイートは出版産業が苦境に喘ぐ中、幻冬舎ですらもそうしたモデルでは厳しくなり余裕が失われたことの表れなのか?

「ベストセラーの作品を批判したから」という理由でスタンスの異なる少部数の著作の出版機会を抹殺することは、出版人として実は自殺行為でもある。百田尚樹氏から重信房子氏まで多様な著者を抱えてきた幻冬舎でもあるだけに、なおさらそうした批判はなされて然るべしでもあろう。

(岩本太郎・編集部、2019年5月31日号)

最終更新:6/10(月) 10:19
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