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「合流して即フルメニューは無理」リハビリのピリオダイゼーション

6/10(月) 19:33配信

footballista

過去のインタビュー記事では明朗な語り口で非常に大きな反響があった、来季オランダ1部に昇格するスパルタ・ロッテルダムで活躍中のフィジオセラピスト相良浩平氏。彼の仕事は多岐にわたるが、メインとなるのはケガ人対応や予防だ。そこでケガの発生から復帰に至るまでのプランニングである「リハビリのピリオダイゼーション」について、欧州サッカーの現場の実例を交えて解説してもらった。

インタビュー・文 浅野賀一
編集協力 堀本 麦(フットボリスタ・ラボ)

2つのピリオダイゼーションの一体化

── まずリハビリという言葉の定義から教えてください。

「多くの文献では、ケガの定義が『すべての練習に参加できない状態』とされています。あるいは『試合に出られない状態』。そう考えると、ケガから復帰して90分間プレーできるようになるまでのプロセス全体を指してリハビリと言うのかなと」


── では、リハビリのピリオダイゼーションとは何でしょう?

「簡単に言うと、リハビリのプランニングですね。選手がケガをしてから90分間プレーできるようになるまでのプランの仕方です。ただ問題は、メディカルスタッフとテクニカルスタッフの連携です。ここまではメディカルスタッフ、ここからはテクニカルスタッフという分担制ではなく、ケガの最初から試合に90分間出場できる状態まで2つのスタッフが連携して見ていく必要があります。リハビリがチームのトレーニングプロセスと切り離されてしまうと、トレーニングに戻るのがすごく難しくなってしまいます。なので今は、サッカーのピリオダイゼーションの中にリハビリのピリオダイゼーションを組み込むことが求められています」


── 逆に言えばメディカルスタッフにも戦術トレーニングへの理解が求められるということですか?

「フィジオセラピストが戦術トレーニングをどこまで理解すべきかは一概には言えませんが、少なくともコンディショニングトレーニングでは、チームがどういうトレーニングを、どういう負荷でやっているのかがわからないとリハビリのゴール設定ができなくなります」


── その2つが分離していた時はどんな問題が起こっていたんですか?

「チームのトレーニングに合流してすぐにフルメニュー参加を強いられたり、すぐに試合に出られると判断されたりですね。でもそれって実際は無理なので、再受傷する原因になっていました。例えばハムストリングの再受傷が起こるのはトレーニングに復帰してから3週間以内が6割以上というデータがあります。なので、メディカルとテクニカルのコミュニケーションが取れていなかったりすると、あるいはトレーニングに合流してから段階的に負荷を上げていくプランができていないと再受傷しやすくなります」


── リハビリのピリオダイゼーションは、具体的にどういう区分けで運用されているんでしょうか?

「逆から考えていきましょうか。まず最終的に『90分間プレーできる』がゴールだとすると、リハビリの最終段階が『ゲームの出場時間を増やしていくこと』。その前の段階が『チームのトレーニングに合流してフルメニューをこなせる状態』ですね。イコール、サッカーのアクションが起こせる状態になります。その前の段階として、『チームのトレーニングに合流前の状態』があります。この状態だと、サッカーのアクションはトレーニングできないんですね。なぜかというと、サッカーのアクションというのはコミュニケーションを取って状況判断をして、判断を実行すること。要は対戦相手や味方がいない状況の中でのリハビリでは、サッカーのアクションのトレーニングはできない。なので、リハビリからチームの練習に合流する時にいきなりフルメニューは論理的に不可能なんです。

 最初はパスとウォーミングアップだけとか、パス&コントロールの練習だけにして、サッカーの中の複雑性がない状況からやる。要は『サッカーのアクションに必要となるアクションのトレーニングをする期間』です。例えば、プレスというのは、スプリントとストップというアクションに分解できます。僕らは『ベーシックアクション』って呼んでいますけれども、それをトレーニングしていく段階があります。ただベーシックアクションも2つに分けられて、それをピッチ上でやる場合と、ジムの中でやる場合があります。ただ基本的にはジムのトレーニングとピッチ上のトレーニングは並行して進んでいくんですね。昨日までは全部ジムでのトレーニングをやっていたけど、今日からは全部ピッチ上になりますではなくて、ピッチ上のリハビリが始まったけれども、ジムでのリハビリもあるし、同時に筋力を回復させる動きもあります。そして、その前の段階が『ベーシックアクションを行うための動きの改善』ですね。具体的には関節の可動域や安定性であったり、筋力だったりを鍛えます。これがリハビリの初期段階ですね」


── 逆にケガをしたところから始めると、まずドクターに診せに行くところからですか?

「国によって違うかもしれないですけど、ドクターの役割は『画像診断』(MRIやレントゲンなどが必要なケガの診断)と、『手術が必要かどうかの判断』、そして『手術』の3つです。重傷ではないケガの診断にもドクターが関わってくるチームもあると思うんですけど、おそらく多くのチームでドクターは常駐してないので、基本的な診断はフィジオセラピストがやっていると思います。で、復帰までの期間は、もし画像診断をした場合はドクターとフィジオセラピストでその目安を決めていく形になります。画像診断をしない場合は、フィジオセラピストが決めます」


── そこで全治が出た後はまず休みますよね?

「最初の2、3日間は炎症の期間になるので、治るまでは炎症が治るプロセスを促進しながら患部に影響がない範囲でケガをした他の部位のトレーニングを始めていくことになります。例えば膝の靭帯を負傷したとしたら、手術をするかしないかの判断をまずしますよね。手術をしない場合であれば炎症期を終えた後から、まず動きの改善を行います。関節の可動域だったり筋力を向上させていくトレーニングを行い、その後ジムでのベーシックアクションの改善→ピッチ上でのサッカーのアクションを向上させていくリハビリに移行して、チームのトレーニングに合流→試合に出る、という流れになります」


── 次の段階に進む判断はどういう基準でしているのですか?

「最終的には爆発的なアクションを起こさなくてはいけなくなるじゃないですか。それに必要な数値が基準になります。例えばハムストリングが爆発的なアクションに耐えられるような筋力になっているかどうかとか。ピッチ外で100%のスプリントができるところを経て、サッカーの状況の中でコミュニケーション、判断という負荷がある中でも同じことができるのかどうかなどを見ます」


── ケガをした時点で全治が出るじゃないですか。実際問題、段階を移行する基準は経過日数が目安なのでしょうか?

「各ピリオドの目安は負傷部位によって変わってきます。例えば、足首の捻挫だと割とコントロールしやすい。テーピングなどをすれば割と早くその段階をクリアできていくんですけど、肉離れとかになると負荷をちょっとずつ上げていくことが大事になってくるので、そこを慎重にやっていかないとすぐ再発しちゃうんです。あるいは休んでいた期間が長くなる前十字靭帯とかだったら、ウォーミングアップに復帰してから全体練習に合流するまでの時間が長くなってきます。全体的にはよくあるケガだと予想がつくんですけど、あまり見ないケガになると難しかったりします。ケガの併発も予測を難しくしますね」

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最終更新:6/10(月) 19:33
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