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テレビ局の取材が殺到するスーパー「アキダイ」、秋葉社長が語る“テレビに出る理由”

6/11(火) 5:58配信

デイリー新潮

オープンするも閑古鳥

 ところが、本当の難関はこれからだった。不動産会社を回るのだが、誰も「23歳で八百屋の元社員」にはテナントを貸してくれない。

「縁もゆかりもないところを回っていると、練馬区の関町北にテナントを見つけました。大家さんに頼みに行くと、息子さんと僕が同い年だと分かったんです。『息子の同級生が八百屋に挑戦するなら、応援するしかないなあ』って貸してくださることになったんです。ところが、ほっとしたのも束の間、今度は融資してくれるはずの青果組合が『開業資金は貸せない』と断ってきました」

 融資担当者がテナントの前に車を停め、人の流れをチェックしたが、半日見ていても「誰も歩いていない」と指摘。「こんなところで商売はうまくいかない」と反対したのだ。結局、秋葉社長が200万円の貯金を担保として差し出し、何とか500万円の融資を受けて開業に漕ぎ着けた。そして担当者の“予言”は的中してしまう。

「オープン初日は多くのお客さんがチラシを手に持ち、特売品を買いに来てくださいました。ところが翌日から、お客さんは消えました。来客どころか人通りがゼロです。誰も店の前を歩かない。バスが店の前を通るんですけど、乗客の皆さんに繁盛していない八百屋を見られるのが恥ずかしくて、あんなに好きだった仕事なのに、もう辞めたくてたまらなくなってしまいました」

 客が来ない店に立ち続けながら、「誰か放火してくれたら、保険金が下りるなあ」と妄想したこともあったという。そして秋葉社長は、「来年に店を畳もう」と決断を下す。

「周囲の人たちに応援してもらったから、いい加減な気持ちで閉店するわけにはいきません。『あれだけ秋葉が努力しても客が来ない。閉店は仕方ない』と言われる必要がある。だから、店を辞めるために、全力を尽くしました。たまにお客さんが来れば、必死で接客する。客のいない店をバスから見られて恥ずかしいなんて言っている場合じゃない。紙に大根1本の値段を大書して、それを通過するバスのお客さんに見せるようになりました」

 最初に反応したのは近所ではなく、周辺に住む高齢女性だったという。彼女たちはシルバーパスを使えばバスを無料で乗車できる。秋葉社長の掲げる紙を見て「安そうな八百屋だ」と考え、わざわざバスで買いにきた。すると「店長の兄ちゃんは元気がよくて面白いし、品揃えもいい。野菜の知識も豊富だ」と評価、リピーターになってくれた。

「3月にオープンして、ずっとお客さんがいなかった。それが店を辞めるために必死になると、GW休み明けに1日の売上が2ケタになり、秋には1日80万円を突破しました。そして結局、毎日100万円の売上が続くようになり、店を畳む必要がなくなったんです」

 右肩上がりの成長が続き、今では練馬区と杉並区に5店舗、更にパン工房と居酒屋も経営している。マスコミが来るようになったきっかけは「はっきりとは覚えていない」と言う。

「記憶にあるのは、農水省さんの『野菜高騰』と書かれた資料を基に、テレビとか新聞の記者さんが取材されていたことですね。すると資料の内容が情報として古いんです。僕ら小売の情報をまとめて広報されるから、タイムラグが生じちゃう。その辺を丁寧に説明すると、記者さんにとても喜んでもらえました」

 夏の暑い日にテレビクルーがロケに来ると、ADがへばっている。見かねた秋葉社長がクーラーのある事務室に案内すると感謝された。そのADが何年かしてディレクターに出世。今度はディレクターとして再び取材に来る――こんな“好循環”も露出度アップに影響を与えたようだ。

「東日本大震災が起きた2011年を境に、取材が増えたのははっきりと覚えています。最高で同時に4班のクルーがいらしたこともありますよ。順番に並んでもらいました。他にも、テレビカメラの前で野菜の価格なんかをコメントするでしょ。そうすると、『お世話になってるAというディレクターとBというディレクターが結婚するんです。結婚式に流しますから、引き続きコメントをください』って頼まれて、『マジか、結婚おめでとう!』ってカメラの前で喋ったこともあります(笑)。結婚式では大ウケだったと聞いていて、役に立ててよかったなあ、なんてね」

 なぜテレビの取材を受けるのか、秋葉社長は「やっぱり、テレビに出るのが好きなんでしょうね」と笑う。

「テレビの中にいる自分を見ると、すごく新鮮でね、わくわくしちゃうんですよね。また、皆さんの取材に答えられるということは、自分の商品知識がしっかりしている証明でもあります。自分で自分をテストしている意味合いもありますね。何よりお客さんの役に立つのが嬉しいのと同じくらい、マスコミの皆さんの役に立つのも嬉しいんですよ」

 テレビに出たからといって、店の売上が増加するということはない。その辺は、消費者はシビアだ。それでも秋葉社長がテレビに出る理由の1つは、ある人と連絡を取りたいからだという。

「小学校2年生から4年生まで、僕のクラスを担任してくれた女性の先生がいるんです。ケンカばかりしていたから、他の先生にはいつも怒られて、昔だから殴られたりもしていた。でも、その先生だけは僕のことをとても評価してくれて、いつも応援してくれたんです。幼い時の人間性を、その先生に作ってもらったという感謝がある。だからテレビに出ている僕を見て、手紙でも送ってくださらないかなあと、心待ちにしているんですよ」

 ちなみにアキダイの「アキ」は秋葉から来ているが、「ダイ」は高校時代に「一緒に店を経営しよう」と語り合った友人の名前が由来だ。縁がなく、友人と八百屋を開くことはなかったが、店名は変えなかった

 取材の翌日には、レジ袋有料化の法整備が報道され、さっそく秋葉社長の解説コメントが民放キー局で紹介されていた。「お客さんだけでなく、社員にアキダイのファンになってもらうこと」が夢。ずっと無趣味だったが、近年は旅行を楽しむ余裕も出てきた。二女、それも双子の父親でもある。

週刊新潮WEB取材班

2019年6月11日 掲載

新潮社

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最終更新:6/11(火) 5:58
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