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「その炎上はどこから?」中高生向けのメディアリテラシー本を執筆した現役記者と一緒に悩む、上手に失敗するためのネット処世術

6/12(水) 11:40配信

FINDERS

今年2月に発刊された新書『その情報はどこから? ネット時代の情報選別力』(筑摩書房)の著者、猪谷千香氏にインタビューする機会を得た。同氏は産経新聞、ニコニコニュース、ハフィントン・ポスト日本版(現ハフポスト日本版)といったキャリアを経て、現在は弁護士ドットコムニュースで記者をしている、紙・ウェブの両方を渡り歩いたジャーナリストだ。

『その情報はどこから?』は主に中高生を読者対象とした、平易な入門書でありながら深い内容も垣間見えるラインナップのレーベル、ちくまプリマー新書から出版されており、悪質なデマやフェイクニュースも飛び交う現代の情報社会の海をどのように“航海”していくべきかをわかりやすく解説した一冊である。

こうしたインタビューでは新刊の話を中心に聞くのが通例だが、悲しいかなウェブメディア記事は「読みたい人しかクリック(タップ)しない」という性質から、「どうあるべきかをすでにある程度知っている人」ばかりが読み、得てして「真に記事の内容を知って欲しい人」には届かないことが多い。

そこで今回は趣旨を若干スライドさせ「どんどんと便利かつ高度化する一方、炎上時の被害もシャレにならなくなってきている、中高生のSNS利用はいまどんな風にあるべきなんでしょうか?」というテーマ設定をお願いした。

このインタビューには「フォロワーを1000人獲得する方法」も「やりたいことで飯を食っていく方法」も載っていないが、それでも頭の片隅に置いておいて欲しい重要な話がある、と思っている。

メディア業界の人間も、ネットやSNSとの付き合い方に悪戦苦闘している

―― 今の中高生にとってのSNSとの付き合い方って昔よりかなり難しいと思うんです。「たとえ炎上でもいいから話題になって承認欲求を満たしたい」「あわよくば稼げるようになりたい」みたいな欲望を原動力に、突っかかっていっては案の定批判され、本名や学校名など個人情報がカジュアルに晒され、効果的な嫌がらせの知見も共有・蓄積されてエンタメにすらなっている。そんな中で猪谷さんは『その情報はどこから?』という中高生向けのメディアリテラシー本を上梓されたじゃないですか。SNS社会で若い子がうまく失敗し、次につなげる方法を教えてもらえませんか?

猪谷:難しいですよね。大人でも失敗しまくりだと思います。

―― まぁそうですよね…。

猪谷:日々、ネットで情報を発信している私たちネットメディアの記者でも、記事に対する読者からの反応が完璧に読めるわけではありません。まずは書いて世の中に投げてみるけれども、リアクションは予想とは違ってて……。「これは良記事」と褒められる時もあるし、「これはおかしい」と厳しく突っ込まれる時もある。SNSで情報を発信するということはそういうことだと、みなさんに知ってほしいと思っています。

―― 確かにそうかもしれないですね……。

猪谷:できるだけ突っ込まれないよう、それなりに考えて発信した情報でもそうなのですから、どういうふうに物事が転がっていくのかを考えないままノリで発信してしまったりすると、全く予想だにしない反応が返ってくることは多々あります。その難しさですよね。メディア関係者は、いちおう「情報を出すことによって物事にどう影響するか」を考えて情報発信する訓練を積んでいます。それでも失敗しますから。

―― 情報を出すことによって物事にどう影響するか。そこをもう少し詳しくお願いします。

猪谷:最近の大きな炎上だと、幻冬舎の見城徹社長が、百田尚樹さんの『日本国紀』(幻冬舎)に批判的な作家の作品の実売数をツイートして、大炎上しました。ネットメディアだけでなく、大手メディアも取り上げ、結果、見城社長はTwitterを去り、幻冬舎は公式に謝罪しました。経営者や社員のちょっとした発言が、企業のブランドにまで影響を与えるというのは以前から言われていますが、まさにセオリー通りの炎上でしたね。

――場合によっては、会社の命運に関わることもあると。

猪谷:企業だったら、不買運動が起きたり、株価に影響したり、リアルにまで影響することは少なくないです。「みんなが容易に情報発信できる」ということは、そういうことだと思います。一方で、その力は社会を動かす原動力にもなりえます。たとえば2016年の「保育園落ちた日本死ね!!!」の匿名ブログなんかは顕著だったのではないでしょうか。

これまで新聞やテレビで散々、「保育園が足りない」と待機児童問題を報じてきたわけですけど、事態はほとんど変わりませんでした。ところが「保育園落ちた~」で当事者であるお母さんの生の声が、直にみんなに伝わった。それによって人々が動き、国会でも話題になって政治も動き始めるわけです。ネットでは、誰もが一人ひとりそういう可能性を実は秘めていて……という側面もありますよね。

また、最近だと、Twitterでカネカ社員の妻が、夫が育休を取ったら即転勤というパタハラを受けて会社を辞めたとツイートし、カネカが大炎上しています。法的な見解を述べたコメントを出しましたが、ますます火に油を注ぎました。あれも、カネカは少しSNSの発信力を見誤っていたのだと思いますし、法的な白黒よりも、人々がその言葉をどう受け取るかが社会に影響するのだと実感させられました。

この炎上は政治にも影響を与えていて、自民党の国会議員有志が、男性の育児休暇義務化を考える議連が発足したのですが、そこでもカネカは厳しい批判を受けたそうです。

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最終更新:6/12(水) 12:09
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