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映画『長いお別れ』――「家族って良いよね」それを伝えたい    中野量太

6/12(水) 13:33配信

創

父親はどこに帰りたかったのか

『長いお別れ』はもともと雑誌に連載された8話の連作短編を1冊の単行本にしたもので、2016年には医療をテーマにした小説から選考される日本医療小説大賞を受賞している。本映画のプロデューサーである原尭志は、「我々が頭で記憶していることは不確かなのではないか? 心で記憶していることの方が確かなのではないか?」という物語のテーマに惹かれて映画化を決めたという。

中野 小説は1話毎にストーリーが完結しているので、これをどういう形で一本の映画にまとめるのかを考えるのにすごく時間がかかったんですが、あることを決めてからは比較的スムーズに脚本作りが進みました。まずお父さんの病気が発症してから死ぬまでの7年間を4つの段階に分けたんです。その7年間と平行して家族にも7年の時間が流れている。それを親の世代、娘たちの世代、孫の世代と3つの世代で描くということを決めたんです。もう1つ決めたのは、認知症になった父親が何を思っているのかを勝手に描くのは絶対にやめようということ。それはわからないことだから。周りの人、つまりお母さん、娘、孫、それぞれがどう触れ合うかで父・昇平を描きました。

 映画化にあたって中野は、話の本筋は変えることなく、10年の物語を7年にするなど随所に映画的な改編を加えている。幻想的なメリーゴーランドのシーンが中盤に出てくるのも長編映画ならではのアイデアだ。

中野 原作もメリーゴーランドのシーンで始まりますが、それがすごくいいなと思っていて、これを映画のクライマックスにもしたいと思いました。病院の先生に取材していた時に教えてもらったのが傘のエピソードなんです。ある認知症のおじいさんが、いつも「帰る。帰る」って言って家の外に出るんですが、晴れた日でも必ず傘を持って行くそうなんです。それは、昔、自分が傘を持って子供たちを迎えに行った時の記憶が残っているからだと聞いて、なるほどなと。それをメリーゴーランドのシーンに足せば、映画の核となる物語が作れるんじゃないかと。

 認知症の人が自分の家にいるのにどこかへ帰りたくなるのは「たそがれ症候群」とも呼ばれる病気特有の症状だが、本映画でも父・昇平は何度も「帰りたい」と口にし、どこかへ行こうとする。「父親はどこに帰りたかったのか」は、物語における大きな謎解きでもあり、見る人によって様々な解釈ができる部分でもあるが、中野監督が提示した1つの回答があのメリーゴーランドのシーンだろう。

中野 先ほども言ったようにお父さんの主観は描かないように決めてましたが、唯一、主観を描いたのがあのシーンです。作り手の思いを1箇所だけ描きたかった。「帰りたい、帰りたい」と言っていた昇平は、どこに帰りたくて、何を見たかったのか? あのシーンだけは僕の主観なんです。やっぱり、お父さんが帰りたかったのは、そうあって欲しいなと。

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最終更新:6/12(水) 15:01

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