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映画『長いお別れ』――「家族って良いよね」それを伝えたい    中野量太

6/12(水) 13:33配信

創

認知症は、記憶を失っても心は生きている

 映画では2007年から2013年までの7年間が描かれているが、2011年3月11日の東日本大震災が境となって、物語は新たな展開を迎える。原発事故のニュースが世界中で報じられ、アメリカに暮らす長女の麻里は両親が心配で頻繁に電話をかけるようになる。一方、次女の芙美は当時つきあっていた恋人・道彦と破局してしまう。震災をきっかけに道彦が元の妻とよりを戻したからだ。悲しみに暮れる芙美は、ある時、ふと昇平に「ねえ、お父さん。つながらないっていうのはせつないね」と心の裡を打ち明ける。すると昇平は「そうくりまるなよ」と謎の言葉で答えるのだ。娘と父親が心を通わせる重要なシーンだが、監督はどのような思いを込めたのだろうか。

中野 3・11の後って、例えば別れた恋人がまた一緒になったりとか、みんな誰かとつながりたい、帰る場所が欲しいと思った時期でしたよね。震災後、芙美は恋人と別れることになってしまったけど、その一方で、お父さんとは心がつながったんです。芙美にとって何が大切で、何につながれるのかに気づく非常に大切な場面ですが、そういうシーンって撮るのが恐いんです。「言葉は通じなくても心が通じる」という難しい演技を、はたして自分はちゃんと撮れるんだろうかと。でも山崎努さんと蒼井優さんの2人がそれを見事に演じてくれて、撮った後はホッとしました。お父さんは目の前にいるのが自分の娘だとすら分かってないんだけど、その悲しんでいる人をなんとか励まそうとしているんです。それは、記憶は消えても心が消えてないからです。

 中野はこの映画の描くべき本質を忘れないために「認知症は、記憶を失っても心は生きている」という言葉を台本の裏表紙に書き込んだという。

中野 制作が決まった時に「今の認知症の映画を撮ろう」と決めていました。一昔前の認知症は、家族が大変だとか苦しいとか、そういう暗いイメージの作品が多かったと思うんですが、取材をしている時に、今はそういう考え方ではないと言われました。奥さんの名前や子供の名前を忘れるのは病気だからしょうがない、でも、名前は忘れても、この人が自分にとって大切な人だということは忘れないんだと。それが今の認知症の捉え方なんだと。だからそれを象徴する言葉として「認知症は、記憶を失っても心は生きている」と台本に書き入れました。それがこの映画の根本のテーマです。

 映画化にあたって原作の中島京子さんからは「原作にあるユーモアやおかしみだけは残して欲しい」という要望があり「あとは自由にして頂いていいです」ということだった。そして中野は、原作の3姉妹という設定を2人の姉妹に変えて、孫を1人に絞るなど大胆な変更を施して脚本を書き上げた。

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最終更新:6/12(水) 15:01

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