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戦車に恐れおののく生身の兵士たちの最後の拠り所「モンロー/ノイマン効果」【第二次大戦の歩兵携行対戦車火器】

6/12(水) 18:00配信

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■戦車に恐れおののく生身の兵士たちの最後の拠り所

 戦車の装甲を貫き、内部に被害を与えて撃破するには、徹甲弾が用いられるが普通である。この徹甲弾は、内部に炸薬が入っていない(ただし一部には少量の炸薬が充填されているタイプもある)ムクの硬い合金で造られた砲弾を高速で発射して、「重量+速度」の運動エネルギーで装甲を貫通するため「運動エネルギー弾」の別名でも呼ばれる。

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 威力の根源が運動エネルギーにある以上、いかに重い砲弾をいかに高速で発射するかが対戦車砲の命題だが、砲弾を重くするには砲弾を大きく、つまり発射する砲の口径を大きくしなければならず、その重い砲弾に高速を与えるには、より多くの発射薬が必要となる。

 そして、大口径で大量の発射薬を使用するとなれば、そのための砲自体も構造上大きく重くなり、しかも「作用・反作用」の原理で、重い砲弾を高速で発射すると、相応の強烈な反動もまた生じる。

 ゆえに、敵の重装甲の戦車でも撃破可能な高威力の対戦車砲ともなれば、何トンもの重さとなるため、そうたやすく「運ぶ」ことなど不可能だ。

 戦車の装甲は、敵弾を遮るだけでなく、外で爆薬が炸裂しても内部に被害が及ばないようにする目的もあり、単なる爆発では貫通できない。ただし、履帯や転輪といった足回りや、エンジン室の吸排気口などを大量の爆薬で破壊し、装甲は貫通できずとも行動不能に陥らせることはできるが、そのためには相当量の爆薬が必要となる。

 ところが、ある技術によって爆薬の爆発で装甲を貫徹することが可能となり、大きく重い対戦車砲や、大量の爆薬を用いなくとも、戦車の阻止(撃破)が可能となった。

 それは、19世紀末にアメリカの科学者チャールズ・エドワード・モンローが発見した、いわゆる「モンロー効果」と、1910年にドイツの科学者エゴン・ノイマンが発見した、いわゆる「ノイマン効果」を合わせて応用した、対戦車爆発物の発明による。

 モンロー効果とは、金属の円筒形の容器に爆薬を充填し、解放された一方の面にコーンと称される円錐形の窪みをつくる。そしてこの面を装甲板に密着させ、円筒形の容器の底部、つまりコーンとは反対側の面から起爆させる。そうすると、爆薬の燃焼はコーンの頂点から始まって装甲板に密着した裾の開口部へと向かい、その時、炸裂威力がまるでレンズで光を集めるように、コーンの対称面の装甲板の一点に集中されて、その装甲板に貫通孔を穿つというものだ。

 一方、ノイマン効果とは、このモンロー効果を起こすコーンの表面に薄い金属製のライナー(内張)を張ることで、爆発威力をより強く1点に集中させ、貫通孔をいっそう深くするというものである。

 この両方の効果を利用した砲弾や対戦車地雷、対戦車擲弾を造れば、重い徹甲弾も、それを発射するための大量の発射薬や、頑丈で重い対戦車砲も、「作用・反作用」問題も解消されてしまうではないか。

 かくして、「モンロー/ノイマン効果」を応用した成形炸薬弾が開発された。炸薬の炸裂で装甲を貫徹するので「運動エネルギー弾」に対して「化学エネルギー弾」と称され、HEAT弾と呼ばれるが、これは“High Explosive Anti Tank”の頭文字を取ったものだ。そして同弾の出現により、それまでは対戦車戦闘に使えなかった低初速の歩兵砲や榴弾砲も、相応の装甲貫徹力を備えることになった。

 だが、同弾にも弱点はある。まずひとつは、コーンが装甲板に正対し、しかも密着していないと装甲貫徹力が低下するのと、貫徹したい装甲板の前に、薄い鋼板や金属製のメッシュなどを挟んでその手前で起爆させてしまうと、焦点がズレて肝心の装甲板を貫徹できなくなってしまうが、これを「起爆のスタンドオフを狂わせる」と呼ぶ。もうひとつは、装甲板への命中角が斜めになればなるほど、起爆時の装甲貫徹力が逃げてしまって貫徹力が減衰する点だ。

 とはいえ、これらの弱点を補って余りある「モンロー/ノイマン効果」を応用した兵器は、第二次大戦という鉄火の嵐の中で、戦車に恐れおののく生身の兵士たちの最後の拠り所となって行くのだった。

文/白石光(戦史研究家)

最終更新:6/12(水) 18:00
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