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メロウな雰囲気を帯びたアイドル 田原俊彦はバブルの階段を駆け上った

6/12(水) 13:00配信

CREA WEB

【第1回】田原俊彦

 初めてアイドルがデビューして人気者になる瞬間をリアルタイムで見たのは、田原俊彦だった。デビュー曲は「哀愁でいと」(1980年)。その名の通り、どこか哀愁漂うメロディーは、アメリカのアイドル歌手、レイフ・ギャレットの「New York City Nights」のカバーだった。

 当時の歌番組では、欧米のヒット曲をコーナーでカバーすることも多かったし、知っての通り、西城秀樹の「YOUNG MAN(Y.M.C.A.)」のヒットが1979年ということを考えても、そんな流れを受けてのことなのかもしれないが、「哀愁」の漂うマイナーコードのダンス曲というのは、何かこちらに訴えかけるものがあった。

 今の“トシちゃん”のイメージがどうなのかはわからないが、デビュー当時の“トシちゃん”というのは、意外にも、どこか陰鬱なイメージがあった。

 それは、父親を小学校に入る頃に亡くし、母親思いで、苦労してアイドルになったエピソードを隠さなかったこともあるし、出演した「3年B組金八先生」(1979~1980年)で中学生を演じるのに、年齢が離れすぎているということで、年齢を詐称していたとか、そういうエピソードのひとつひとつが、「哀愁でいと」のように、どこか暗い影のように思えたからだ。

田原俊彦のメロウな部分が好きだった

 しかし驚くのは「3年B組金八先生」で中学3年生を演じるとき、田原はまだ18歳。

 たった3歳の違いですら、公称年齢を変えざるを得ないとは……と思わずにいられない。今なら高校生役を20代後半の俳優がやることもある。舞台であれば、20代半ばの俳優が中学生を演じることだってある。

 当時は歳をとるごとに、誰もが一様に大人へと成長していくべしという目線があったのだなと思い知らされる。一人だけ、永遠に子供のまま、ということは許されなかったのだろう。

 『ピーター・パン・シンドローム/なぜ、彼らは大人になれないのか』という本が日本で発売されたのは、1984年のことである。

 しかし、田原俊彦は、アイドルであるからこそ、「大人になる」ということに抗わされているようにも見えた。特に田原の「アハハハハ」と爽快に笑う声や、「ボクはね……」と甘い感じでしゃべりだす様子などもモノマネのネタにされ、どこか幼さのようなものが、次第に田原のパブリックイメージに変わっていったと思う。

 ただ、このあやふやな声が魅力だったのも事実だ。うろ覚えだが、田原よりもうんと年上の女性のタレントからは、「トシは声がいいのよ」と言われていた記事をみたことがあり、小学生の私は、そういうものなのか……と大人ならではの「良さ」の表現力をぼんやりと記憶にとどめていたのだ。

 そんな田原のパーソナリティを曲に込められたものもあった。いわゆる「あてがき」のようなものだ。1981年にリリースの「ブギ浮ぎ I LOVE YOU」の中では、歌の途中に「HA-HA-HA-HA-HA 馬鹿だネ」というセリフを言う箇所がある。「アハハハハ」と普段のように笑ったあとで、急に真面目なトーンで「馬鹿だね……」というときの、無理に大人ぶり、なにもかもを見透かしているようなトーンになる田原の声のギャップに、小学生の私はドキッとしていたのではないか。もちろん、その頃にはこうして言葉にするほど自覚していなかったのだが、今、書いているとそう思えてくる。

 私が田原俊彦の何が好きだったのかと考えると、デビュー曲にしても、その後の楽曲にしても、多分に“メロウ”な部分があったことであると思うし、たぶんアイドルとしての田原俊彦にも、同様に“メロウ”な部分があったからではないかと思われる。

 そして、そんなメロウな部分を隠すように、その間に明るいイメージが意図的にが挟み込まれる。楽曲も底抜けな明るい曲と、メロウな曲が交互に発売された。

 ときに、「NINJIN娘」(1982年)のように、子供に向けた歌を歌ってはヒットさせたかと思えば「シャワーな気分」(1983年)のように、明るい中にメロウさを、そして大人な印象を与える作品も出す。

 楽曲や作品を通して、揺れながら、大人になっていく。本人もそこに多少の戸惑いを見せながらも、大人だと思われるようにもがいているがごとき姿をリアルタイムで見られたことは、私にとっても貴重であった。

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最終更新:6/12(水) 20:55
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