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復刊ブームを作った編集者が振り返る田辺聖子さんの真の魅力

6/13(木) 8:01配信

現代ビジネス

 6月6日に91歳で天国へ旅立った作家の田辺聖子さん。デビューは1957年。64年に『感傷旅行(センチメンタル・ジャーニィ)』で芥川賞を受賞しながら、恋愛小説やユーモアたっぷりのエッセイ、そして古典をベースにした小説など幅広いエンターテインメント作品を生み出してきた。

 田辺さんの人生そのものがNHKの朝ドラ『芋たこなんきん』になっている、小説界のレジェンドともいえる存在だが、特筆すべきなのは田辺さんの作品が今も「今の作品」として読み継がれていることだ。その大きな波のひとつが、2007年6月から始まった「乃里子3部作」の単行本復刊だった。17歳のときに田辺作品に出会い、自らが救われた田辺さんの言葉を「今」に残したいと復刊ムーブメントを作った担当編集者・緑川良子さんに、改めて当時のことと田辺作品の魅力を伝えてもらった。

1970年代に描かれた「自立する女性」

 「苺をつぶしながら、私、考えてる。
こんなに幸福でいいのかなあ、って。
一人ぐらしなんて、人間の幸福の極致じゃないのか?」

 主人公の乃里子は、今、一人で大好きな苺を食べている。この後も一人暮らしが幸福すぎて目の前が暗くなるほど、という乃里子の独白が延々続く。田辺聖子の「乃里子3部作」3作目、『苺をつぶしながら』である。

 「乃里子3部作」とは、主人公乃里子の31歳から35歳までを①『言い寄る』②『私的生活』③『苺をつぶしながら』の3作で描いた田辺聖子の恋愛小説だ。

 フリーランスのデザイナー乃里子が、軽い恋をちょいちょい楽しみつつも長年片思いしていた男に大失恋し(①)、言い寄ってきた財閥の色男と結婚し(②)、離婚してまた一人暮らしに戻る(③)。『言い寄る』は1973年に週刊大衆の連載としてスタート。書き継がれ、3作目の『苺をつぶしながら』が1982年に刊行された。「25歳以上の未婚女性はイブを過ぎたクリスマスケーキ」だった時代に、結婚したものの自らの意思で一人に戻る女性の選択を描いたのは革新的だった。

 単行本、文庫をあわせると3部作で当時だけで158万部以上を売り上げた。山田詠美さん、酒井順子さんなどのそうそうたる作家たちも愛読書に掲げている。

 17歳のときの私は、先に挙げた『苺をつぶしながら(以下、「苺」)』の冒頭の3行に度肝を抜かれた。乃里子は、初めて見るタイプの大人だったのだ。そして、田辺聖子さんの作品を買いあさり始めた。

 ライムグリーンの背表紙の新潮社文庫、濃い赤に白文字の集英社文庫、白地に著者名、その下がピンクの講談社文庫。田辺作品の文庫本はどんどん増えたが、乃里子3部作をすべて読むまでには時間がかかった。3作目の『苺をつぶしながら』2作目の『私的生活』は講談社文庫だが、1作目の『言い寄る』だけが茄子紺の背表紙の文春文庫だったから。

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最終更新:6/13(木) 8:01
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