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ハライチ岩井「組み立て式の棚で家庭崩壊しかけた」

6/14(金) 7:00配信

Book Bang

お笑い芸人・ハライチの岩井勇気による初めての連載エッセイ。お笑いのこと、ラジオのこと、アニメのこと、この世界のこと……独自の視点で日常に潜むちょっとした違和感を綴ります。今回のテーマは「組み立て式の棚」です。

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第19回「組み立て式の棚、ふたたび」

 一つのことが原因で、全てが壊れてしまうことがある。しかし壊れてしまった後に原因を辿ると、ほんの小さなズレや綻びが元となっていたなんてことは珍しくない。

 以前「組み立て式の棚の恐ろしさ」について書いた。組み立て式の棚はそれを作る過程で精神の破壊を招く悪魔の家具だ。しかし、実はそれだけではない。組み立て式の棚はさらに恐ろしいことを招く可能性を秘めているのである。

 僕は棚を組立てる際、部品の識別や説明書がややこしいと「は? ? 無理じゃん! なにこれ!? 意味わかんないわ! は? ?」と、なってしまうことがあるのだが、恐らくこれは僕に限ったことではなく、そうなってしまう人は少なくないと思う。そして、僕の父親もそのタイプだった。

 僕が実家に住んでいた頃に、家族が通販で組み立て式の棚を買ったことがあった。こういった物の組み立ては大概父親が任されるのだが、リビングでしばらく作業をしているとやはり僕と同じように、説明書の文章がわかりづらく部品が見つからないことで、父親が「は? ? なんなんだこれ!? 部品一つ無いわ! どうなってんだよ! は? ?」という状態に陥ってしまう。

 挙げ句の果てに「ダメだこれ! 不良品だわ! 捨てだ! 捨て捨て!!」などと言い、母親を呼んで「これ部品一つ無いから捨てといて! 捨て捨て!!」と、とにかく“捨て”というパワーワードを連呼しながら激怒してしまうのだ。すると母親は呆れつつも「ちゃんと見ればあるんじゃないの?」「この部品がここなんじゃないの?」と冷静に作ることを促すが、父親は「いや、やってっから何回も! 全部試して無かったんだから! もう触んな! 捨てとけ!!」と応戦し、火に油が注がれる結果となる。それでも母親が「なら私がちょっとやってみるわ」と棚作りの続きを始めると、父親は「いやいや、絶対無理だから!」と怒りながら自分の部屋に行ってしまうのである。

 しかし母親が棚作りを引き継いでも、結局父親と同じところでつまづいてしまい、一向に進まない。するとしばらくして部屋から父親が戻ってくる。そして作業が進んでない母親を見て半ギレ状態で「ほらな」と言い放つのだ。

 このままでは埒が明かないので母親が注文した会社に電話しようとするのだが、そこでも父親は「いいよ電話しなくて! 捨てなんだから! 捨て捨て!」と“捨て”の猛攻が止まらない。それを無視しながら母親が注文した会社に電話すると、結局その会社が部品を一つ入れ忘れていたことが発覚するのだ。

 それを聞いた父親は「は? ? なんなんだそれ!」とさらに怒り狂い、母親は入っていなかった部品を送ってくれるようにその会社に言う。しかし部品が来るのは3日後で、そうなると部品が来た頃にはもはや手遅れなのだ。父親はやる気が削がれて、一切作らなくなってしまう。仕方なく母親が棚を作り始めるが、棚作りは意外と体力を使うので母親では早々に限界がきてしまう。

「はぁーっ……」と深いため息をついた母親は、4人家族のうちの、妹の部屋に向かう。そして妹に「ちょっと棚作るの手伝って。一人じゃできないから」と言うと、妹は「え、なんで? お父さんは?」と返す。「お父さんもうやらないから」と言うのだが、妹は「えー、嫌だ。やることあるしやりたくない」と拒否すると、母親は疲れた様子で「じゃーもういい」と妹の部屋を出る。すると次は僕に「棚作るの手伝って」と言いに来るのだ。僕も「なんでだよ……」となるのだが、最終的には「わかった」と渋々手伝う羽目になるのである。

 こうして棚作りを手伝い始めるのだが、しばらくすると僕は、妹は手伝わないのかということに気付き、母親に尋ねると「なんかやりたくないんだって」と言う。それを聞いた僕は「なにそれ。やりたくないってなんだよ」となり、妹の部屋に行くのだ。そして妹に「お前も棚作るのやれよ!」と怒りながら言うと、妹は顔も見ずに「なんで? やりたくないもん」と言う。それに対して僕は「は? やりたくないって理由でやらないってなんなんだよ。やれよ」「お前がやらなかったら俺に回ってくるのわかってんだろ!?」と、まくし立てるが妹も言い返し、そこから兄弟喧嘩が始まってしまうのである。

 兄弟喧嘩の末に妹が泣き出し、棚を作れる状態ではなくなった妹は部屋にこもってしまう。するとそのタイミングで部屋から出てきた何も知らない父親が、部屋にこもって泣いている妹に気が付く。ガチャッと部屋のドアを開けて「どうしたんだ?」と聞くと、その瞬間妹は、その日一番の大声で「お父さんのせいでしょ!!!」と怒鳴りつけるのだ。そして兄弟喧嘩と妹の怒号を聞いた母親が「はぁーっ……」とまた深いため息をつくという地獄絵図が完成するのである。

 こうして家に組み立て式の棚が来ることによって、家庭が崩壊に追い込まれてしまう。棚とは爆弾だ。一つの家庭をバラバラにしてしまう可能性を秘めている。

 小さなズレや綻びが、また新たなズレや綻びを生む。そして、今日もどこかで組み立て式の棚が家庭崩壊のきっかけを作っているのかもしれないと思うと、僕は棚とはなんと恐ろしいものかと思うのである。

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次回の更新予定日は2019年6月28日(金)です。

新潮社

最終更新:6/14(金) 15:10
Book Bang

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