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どうなる高齢ドライバーの免許問題 総合能力判定求める声も

6/14(金) 6:12配信

週刊金曜日

 高齢者が加害者となる自動車事故が増えている。認知症の人など高齢者を一律に「運転は無理」と見做し、運転免許の返納を求める声も喧しい。しかし、運転能力の個人差は大きく、認知症でも運転には問題がない人もいる。一括りにはできない。

 熊本県の山あいに暮らす自営業の男性(56歳)は、朝から落ち込んでいた。もの忘れがひどくなった84歳の父親と運転免許の返納をめぐってまた怒鳴り合いになったからだ。父の車は接触傷だらけ。男性はいつか大事故を起こすのではとヒヤヒヤしている。それでも父は「オレの運転は完璧だ」と聞く耳を持たない。

 車のキーを隠すと、父は大声で喚き散らす。地域は公共交通機関に乏しく、車なしで生活は成り立たない。男性は「父にとって運転は『自立できている』という心の支え。免許返納を迫られるのは、存在を否定されているように思えるのでしょう」と話す。

 東京・池袋で4月、旧通産省の元幹部(87歳)の車が信号を無視して暴走し母子2人を死亡させた事故は記憶に新しい。警察庁によると2018年の75歳以上による死亡事故は前年より42件増の460件。運転免許人口10万人当たりの件数は8・2件。80歳以上では11・1件、75歳未満(3・4件)の3倍以上だ。約560万人いる75歳以上の免許所持者は、あと2年で610万人超と推計される。

「75歳以上は即免許取り上げ」

「認知症で運転なんて怖すぎ」

 ネットにはそんな書き込みがあふれる。『産経新聞』は4月の「主張」欄で、免許年齢の上限を定める「定年制」の検討を求めた。こうした声は以前からあり、その意を汲んだのが17年3月施行の改正道路交通法だ。

 改正後の同法では、免許更新時に75歳以上の人は記憶力と判断力を問う認知機能検査が義務づけられた。「認知症の恐れ」と判定されると、新たに医師の診察を義務づけられる。認知症と診断されれば免許停止・取り消しとなる。初年は約5万7000人が「恐れ」と判定され、約3400人が免許停止・取り消し(手続き中だった人含む)となった。

 ただ、検査は当日の年月日を問うたり時計の針を指示通り描いてもらったりという内容で、専門家からは「運転の適性判断には向かない」との指摘もある。認知機能検査で「問題なし」とされながら昨年死亡事故を起こした人は210人いた。池袋で暴走した旧通産省元幹部も17年に免許更新した際「問題なし」だった1人だ。

【事故時の「責任回避」を狙って「認知症」と診断する例も?】

 認知症の人は15年時点で約520万人。25年には700万人に達する見通しだ。彼らの事故リスクが高いのは否定できない。ただし、認知症でも病種によって運転能力は異なる。認知症でなくとも、加齢に伴い運動機能や反射神経は衰える。

 また、免許取り消しの最終判断を医師の診断に委ねている現状では、「事故を起こした時に責任を問われるのを嫌い、認知症でない人まで認知症と診断する例も疑われる」(認知症専門医)という。

 日本老年精神医学会は16年11月、改正道交法を「認知機能の低下による運転不適格者であることと、『認知症』と診断されていることは必ずしも同義ではありません」と問題視し、総合的な運転能力の判定に向けて実車テスト導入などの検討を求める提言書を政府に提出した。当時同学会理事長だった新井平伊・アルツクリニック東京院長は「記銘力(新しく体験したことを覚える能力)に障がいがあっても安全に運転できる人はいる。認知症の有無で運転技能を判定するのは適切と言い難い」と指摘。道路標識などの基礎知識を問う学科試験と実車試験を課す高齢者用の運転免許新設を提言している。

 スイスなどでは、地域や時間帯を限定した条件付き免許を発行している。自動ブレーキなどの技術も進んできた。海外の事例も参考に、交通安全と高齢者の足の確保両立に向けた策を議論する時期にきている。

(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、2019年5月24日号)

最終更新:6/14(金) 6:12
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