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1日の歩行距離は16キロ……アマゾンの倉庫で働く「ピッカー」の実態

6/14(金) 6:00配信

文春オンライン

 原題は「HIRED」。直訳すれば、「雇われ」「被雇用者」くらいのそっけないものだが、過激に意訳されたタイトルが目を引く。

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 副題には「潜入・最低賃金労働の現場」とある。イギリス人ジャーナリストの著者自らが、“最底辺”で働いた体験をまとめたルポルタージュだ。同様のアプローチでベストセラーとなった『 ユニクロ潜入一年 』(文藝春秋)の著者・横田増生氏も推薦する一冊である。

 本書の著者が覆面労働者として潜入した先は、世界最大の物流企業・アマゾンの倉庫。それから、訪問介護、コールセンター、そして、ウーバー(ウーバーは、世界中で展開している配車サービス。日本では「白タク」扱いされて、本来の業態では普及していないが、料理のデリバリーサービス「ウーバーイーツ」が都市圏を中心に急激な広がりを見せている)。

 紹介されるのは、いわゆる「新3K」と言われる「キツい・帰れない・給料が安い」職場ばかりで、なるほど、いずれも劣らず“クソみたいな”労働環境である(本書にはこの“クソみたいな”という修辞が頻出するが、そのうちに慣れると思う)。

 たとえば、アマゾンの倉庫で働く「ピッカー」は、指定された商品をピッキング(選定・集荷)する仕事。

 従業員の多くは、東欧からの移民だ。シフトの前後やトイレ休憩の際も万引防止の厳重なセキュリティ・チェックを受け、常に監視される中で、スピードアップを要求されて、サッカー場10面もあるような巨大な倉庫の中を汗だくになって駆けまわる。就業時の一日の歩行距離は、16キロ以上にもなるという。

ランチ休憩は実質15分

 また、夕方6時からの“ランチ休憩”は実質15分しかない。ノルマを下回れば、容赦なく懲罰ポイントが課されていく。遅刻や病欠もポイント加算され(病気の子どものための早退も1点加算)、そして、6点になればすぐに解雇される。

 まさに現代の「蟹工船」のようなブラックな労働環境だ。

 介護の現場も、イギリスに100万人いるというコールセンターの仕事も、ウーバーの運転手も、労働者は体よく搾取され、疲弊するばかり。

 しかし、本書で語られている労働者たちの苦悩は、きっとイギリスに限ったものではない。ページを繰る手を止められないのは、そこに日本の近未来を見てしまうからかもしれない。

「ここの仕事は大っ嫌い」「この国が好きじゃないの」という移民たちの声は、日本のコンビニや工場で働いている外国人留学生や技能実習生たちの声ではないかと思ってしまうのだ。

 絶望し、発狂しているのは、ひょっとしたら10年後の自分ではないかと思ってしまうのだ。

 最後に皮肉を言えば、本書はどうせならアマゾンで買って読んでみると、行間のリアリティが増すかもしれない。

James Bloodworth/英国人ジャーナリスト。現地で影響力のある左翼系ウェブサイト「Left Foot Forward」の元編集者。ガーディアン、ウォール・ストリート・ジャーナル等にコラムを寄稿。

せりざわけんすけ/ライター。著書に『コンビニ外国人』(新潮新書)など。外国人労働問題の他、最新がん治療「光免疫療法」も追う。

芹澤 健介/週刊文春 2019年6月13日号

最終更新:6/14(金) 6:00
文春オンライン

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