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「全員死なずに帰ってきました!」北極冒険家「帰国報告」

6/14(金) 14:21配信

新潮社 フォーサイト

 

 この春、カナダ北東部バフィン島の約600キロの道のりを12人の若者と歩いた冒険家の荻田泰永さん。フォーサイトでは『北極冒険家「極地便り」』と題し、3月25日の出発から5月11日の帰国までをレポートしてきた。

 20年前、自身が冒険家の大場満郎さんに連れられ北極を訪れたように、若者に何かきっかけを与えたい――。そんな思いから始まった今回の北極行は、荻田さんにとっても新鮮な挑戦だったようだ。以下、帰国後のインタビューをお届けする。

 

――帰国して1カ月ですが、改めて感想は? 

 とにかく無事に終えられてよかったです。95%は何事もなく、残りの5%はモノが壊れるなどいろいろありましたが、すべて想定内。想定外のことは1つもありませんでした。

 

――自然が相手だと何が起きるか分かりません。パングニタングを出発して数日が経った頃、海氷の状況次第では中間地点のキキクタルジュアクで引き返すかもしれないという局面がありました。どういう状況だったのでしょうか? 

 キキクタルジュアクからゴールのクライドリバーまでの海岸線には、「定着氷」という比較的安定した氷が岸に沿って広がっていて、まず春まで溶けません。でも、ここから沖側の氷は動くんです。グリーンランド側からの海流が下りてきて、クライドリバーの半島のところで内側に巻く。すると、氷が時計回りに動き、定着氷とくっついたり離れたり、ということが起きる。

 氷の状況は衛星写真で確認できるのですが、1月末くらいかな、海氷のラインが一気に下がったことがあった。定着氷と沖の氷との間が割れて、離れたわけです。もちろん、元の場所に戻って凍り、大きな動きがなければ、そこに留まります。けれど、また何かの拍子でいつ何時ドーンと割れるか分かりません。

 なので、あまり沖の方へ行くと、万一氷が離れた時に戻れなくなってしまう。それが1番危険なパターンなのですが、かといって海岸線に近い安全なところを縫うようにして歩くと、距離が増えてしまう。50キロくらいは嵩むので、2日くらい余分に必要になってくる。そうすると、我々が持っている時間では厳しいかもしれない。そういう状況でした。

 とは言え、衛星写真をいくら見ても、現地の人に聞いてみないと詳しい状況は分かりませんから、なるべく早くキキクタルジュアクへ行って、それからルートを決めようと思っていました。

 幸いキキクタルジュアクで現地の人に話を聞くと、そこまで海岸線をくねくね曲がらず、比較的真っすぐ行けそうだったので、予定通りクライドリバーを目指しました。

 

――キキクタルジュアクを出てからは、荻田さん以外のメンバーが隊列の先頭を交代で務めたり、ナビゲーションを担当したりしていましたね。どんなことを教えたのでしょうか? 

 地図は3次元の情報を2次元に置き換えたものですよね。等高線は、丸の個数で高度が何メートルか分かる。2次元の情報を3次元に置き換えて見ないといけない。その見方を教えました。

 たとえば島が2つあって、1つは5キロ先にあり、もう1つは20キロ先にあるとしますよね。地図では2つの島の遠近がはっきりしているけれど、いざ彼らが実際の島を見ると、横に並んでいるように見えてしまう。地図読みなんてやったことがないし、2次元情報を3次元に置き換える訓練も積んでいないので、奥行きが分からない。スケールが分からない。

 では、どうすればいいかと言うと、色を見る。遠ければ遠いほど、間に空気の層が入り込み、色が薄くなるからです。東京から富士山を見ると青っぽいけれど、近づくと黒く見えますよね。近い島と遠い島は色が違う。

 だから「見てごらん。あの島とあの島、並んでいるように見えるけど、色が違うよね。右の島は青い。あれは奥にあるんだよ。で、地図を見てごらん。右の島、確かに奥にあるよね」と。ほんのさわりですが、そういう見方を教えました。

 よく、目標物がない中でどうやって歩くのかと聞かれるんですが、そうじゃない。目標物は、ある。それを読み取る経験と習慣、能力をつければ、必要な情報はちゃんとそこに見えてきます。

 歩くことの楽しみに気付いたと言ったメンバーがいましたが、きっと自分たちの意志や行動で物事が進んでいくことが楽しくなったのでしょう。それが「歩くこと」に集約されている。「歩く」という行為には、いろいろな要素が混じっています。

 

――メンバーの変化は感じられましたか? 

 経験したことがなかったことを経験した、知らなかったことを知った、できなかったことができるようになった、というのは確実にあると思いますが、変化というのとはちょっと違う。成長とも違う。物事の別の側面を知る、持っていなかった知識を得るって、変化じゃないじゃないですか。

 この経験が何かに繋がればいいなと思いますが、それぞれがどう活用するかは、彼ら次第。

 私の中で何か発見があったとすれば、この20年間で知らず知らずのうちに自分に身についていたことですかね。

 私が今回彼らに教えたことは、1人で北極に通う中で現地で出会ういろいろな人にちょっとずつちょっとずつ教えて貰ったり、自分で発見したりして、だんだんと身につけてきたことです。それを今回初めて彼らに教えたのですが、「こんなに簡単なことがなぜ分からないんだろう?」「明らかにこっちの島の方が遠いじゃん!」と思うわけです。

 でも、考えてみれば20年前は自分も彼らと同じ側にいて、何もできなかった。そうか、彼らはそんなこと教えられてないし、意識したこともないから、同じものを見ていても、自分と同じようには見えないよな、とハッとしました。自分には当たり前のように見えていることが彼らには見えていないのか、俺が20年間でやってきたことはこういうことだったのか、と。

 グラデーションですよね。真っ白なところから20年かけてだんだん色が濃くなってきた。少しずつの変化だから気付かなかったけれど、急に真っ白だった時の自分にまた出会い、色の違いがはっきり見えた。

 

――道中、メンバーを叱った場面があったそうですね? 

 1~2回ありました。前半の2週間くらいはまだみんな浮足立っていて、観光客気分が抜けていなかった。そういうのって、交わされる会話や行動から分かりますよね。それで、キキクタルジュアクに1日滞在した際、みんなの前でメンバーの1人を叱った。「みんな意識甘いんじゃないの?」と、ぎゅっと締めたんです。意図は伝わっていたと思います。言ってみれば、そのメンバーを見せしめにした(笑)。

 あと、後半にナビゲーションの判断が甘くて……。私がアドバイスしたのとは別のルートを彼らの判断で行こうとしたんだけど、地図がちゃんと読めていないから、そのルートの方がキツいんですよ。明確な根拠のもとに「こっちの方が近い」とか「こっちの方が楽だ」とかいうんじゃなく、「こっちの方が近そうだ」「こっちの方が楽そうだ」という希望的観測で行ってしまった。それで「希望的な観測でメンバーを引っ張るんじゃねえ」と。そういうことは大分言いました。本人も間違えたと自覚しているから、何も言えない。

 

――メンバーとは帰国後、どんな話を? 

 いや特になにも(笑)。1度打ち上げみたいなのをやりたいなとは思っています。ぶっちゃけ話みたいなのがあるかもしれないですね。若者との冒険ウォークは先々またやるかもしれませんが、まだ分からない。

 メンバーの中には新たな冒険の計画を立てている人もいるようですが、私のやるべきことは場をつくることだけ。こうして場はつくったので、それで以上! 無事に終わったというだけで100点満点ですね。

 

【お知らせ】

東京・北品川のブックカフェ「KAIDO books & coffee」で、荻田泰永さんのトークイベントが開催されます! 

日時:6月16日(日曜日)1回目・11時~ 2回目・16時~

場所:KAIDO books & coffee(カイドーブックス&コーヒー)

   東京都品川区北品川2丁目3-7

※参加申し込みはこちらから https://www.facebook.com/events/425713274651610/

 

荻田さんの新刊『考える脚』(角川書店)も絶賛発売中! 

 

フォーサイト編集部

最終更新:6/14(金) 14:21
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