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ルッキズムの謎を解明する!A・トドロフ『第一印象の科学 なぜヒトは顔に惑わされてしまうのか?』が面白い!

6/17(月) 12:13配信

GQ JAPAN

文筆家・吉川浩満がいま話題の文芸書・人文書を紹介する連載がスタート! 第2回は、トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンも薦める「顔研究」についての1冊だ。

【この記事を読む】赤ちゃんだって顔で判断!?

どうして私たちは「顔」に惑わされてしまうのか?

ルッキズムについて考えると心が乱れる。ルッキズムとは、ルックス(見た目、容姿)の美醜によって人を判断すること。不当だと思うし、私にとっても都合が悪い。でも困ったことに、私自身もルッキズムの虜である。日々、人を見た目で判断しているし、悪いことには勝手に一目惚れをしたりもする。公平に判断しなければならない場面でも、ルックスから受ける印象を正確に見積もるのは難しい。

なかでも、顔から受ける印象は強烈である。私だけではないはずだ。人と話をしたりテレビやネットを覗くだけで、誰もが自分や他人の顔に一喜一憂していることがわかる。顔のことで悩んだことのない人なんているのだろうか。美女やイケメンでさえ、美しいがゆえの悩みがあるに違いない。どうして私たちはこんなにも顔に惑わされてしまうのだろうか?

そうした疑問に、その名もずばり『第一印象の科学――なぜヒトは顔に惑わされてしまうのか?』という本が答えを与えてくれる。原題は“Face Value”、すなわち「顔の価値」。第一印象研究の第一人者でプリンストン大学心理学教授をつとめるアレクサンダー・トドロフによる科学啓蒙書である。

顔の価値といっても、人相術や観相術の本ではない。つまり、顔を調べればその人の性格から運命までわかりますよ、という本ではない。ヒトが顔からいかに強い印象を受ける生き物であるかを、多数の実験と数学的モデルにもとづいて実証的に論じる本だ。

赤ちゃんさえ顔で判断している!?

そもそも私たちはどのくらい顔の印象に左右されているのだろうか。本書が紹介する実験結果はショッキングである。なんでも、選挙の結果は候補者の顔を調べるだけで7割程度は予測できるのだという。これは被験者にまったく知らない国や地域の選挙候補者を見せてアンケートをとった結果である。選挙というものの意味について再考を迫られる事実である。

顔の印象で即断を行うのは大人だけではない。子どもでもまったく同じであるし、生まれたばかりの赤ちゃんでも似たような結果になる。出生直後の赤ちゃんを対象にした実験でも、他人の顔を読みとるだけでなく、信頼できそうに見える顔とそうでない顔を区別することがわかった。顔の印象にもとづいて即断を行う傾向は、ヒトが遺伝的に継承してきた生得的な特質だということである。

これだけでも十分に刺激的だが、著者はさらに問う。人の顔とはそれほど簡単に強い印象を与えるものだが、それにもとづいた私たちの判断ははたして妥当なものだろうか? と。

素人進化論ファンである私は、そうに決まってるじゃん、と浅はかにも考えていた。それなりに妥当なものだったからこそ、それが進化の過程でヒトの生物学的機能として定着したのだろうし、多少の間違いやトラブルはあるにせよ、いまでもおおよそ有効に働いているに違いない、と。だからルッキズムの「妥当性」についてもしぶしぶ認めざるをえないと考えていた。

だが、本書は私の思い込み──独断のまどろみ──を打ち砕いた。著者は言う。顔から受ける印象は、その人の実際の性格や気質に関しては、かえって不正確であり誤解を与えることが多いのだと。

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最終更新:6/17(月) 12:13
GQ JAPAN

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