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チェルシー“の”ではなく“も”抱えるイングランドの根深い人種差別問題

6/19(水) 12:28配信

footballista

文 山中 忍

 シーズンも大詰めを迎えると、英国各紙では普段にも増してサッカー関連に紙面が割かれる。残念ながら今季は、その一部に人種差別の話題があった。4月12日付けの『サン』紙などは、スポーツ1面に『SHAMEFUL(不埒千万)』の見出し。前日のEL戦でプラハを訪れたチェルシーファンの中に、リバプールのモハメド・サラーを「爆弾魔」にたとえたチャントを歌った者がいた一件の報道だ。マッチレポートと同等のスペースが割かれた記事には、「イングランド国民の問題ではなく、チェルシーサポーターの問題」とあった。

【動画】プラハでサラーを差別する表現を含んだチャントを歌うチェルシーサポータの様子

 確かに、今季の欧州カップ戦ではナチス紋章入りの旗を手にブダペストに繰り出したグループもいた。国内では昨年12月のマンチェスター・シティ戦でスターリングに黒人差別の罵声。クラブは会長の手による公開状で人種差別撲滅への理解と協力をファンに訴えたが、イスラム教徒に対する偏見に基づくサラーのチャントが示すように、ごく少数とはいえスタンド内外で非道かつ愚劣な振る舞いを見せる者が後を絶たない。

“古風な”FAは確固たる対応を

 ただし、人種差別を「チェルシーに根ざす固有の問題」と片づける主張には頷けない。同紙の記事には「世界有数のコスモポリタンに本拠を置くくせに」ともあったが、今年に入ってファンの人種差別問題が報じられたクラブにはウェストハム、アーセナル、2部のミルウォール、ブレントフォードなど他のロンドン勢も含まれる。

 そして、差別行為に走った輩は、こうしたクラブのサポーターになったり、試合に足を運んだりした途端に人種差別者と化したわけでもないはずだ。集団という隠れ蓑の中であれば、その場の勢いで肌の色や宗教の違いに関する野次やジョークを飛ばしても平気だと思うような者は、人道的な教育レベルの問題を国民として抱えている。人種差別行為が今季途中から目立った背景には、排他的な思考の表れと言えるEU離脱が難航する英国内で、庶民が覚えた苛立ちや怒りがあるようにさえ思える。

 離脱問題における英国政府は頼りない限りだが、サッカー界の政府に当たるFA(協会)には、人種差別問題に対する確固たる対応を期待したい。ファンに差別行為が認められたクラブには、ポイント剥奪や無観衆試合といった処分を検討してもよい。

 同時に、差別行為への抗議としてピッチを去る選手やチームへの理解も求められる。プレミアのように巨大なビジネス面の影響を心配する必要がないノンリーグ(セミプロ)では、すでに昨秋、北西部のリーグでピッチを去るチームが現れた。ところが、地元FAの対応は試合放棄に対する罰金制裁。2万5000円弱の少額だが、ファンが差別的な暴言を吐いた相手チームより高い罰金でもあった。FA規則の根底には、差別を無視して戦う勇気こそが最も効果的な対抗策とでも言うような、古風で英国的な美学があるのだろう。

 人種差別は、“チェルシーも”抱える、この国の根深い問題だ。

最終更新:6/19(水) 12:28
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