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「貿易収支は赤字より黒字が望ましい」は経済学的に誤り エコノミスト小峰隆夫氏

6/19(水) 6:20配信

NIKKEI STYLE

『平成の経済』著者 小峰隆夫氏に聞く

旧経済企画庁出身で、半世紀にわたり日本経済とマクロ経済政策を分析してきた小峰隆夫・大正大学教授がこのほど『平成の経済』(日本経済新聞出版社)を刊行した。月例経済報告や公的な議事録をもとに、政治家や霞が関の官僚がどのような経緯で政策を決めていったのかを再現した一冊だ。著者の小峰氏へのインタビューを交え、本書の読みどころを紹介する。

平成経済はエキサイティングな歴史

「平成の時代の経済に起きたことは意外な展開に満ちており、エキサイティングな歴史の動きを書き残したいと思った」。研究室を訪ねて執筆の動機を聞くと、こんな答えが返ってきた。バブルの崩壊と不良債権問題、デフレの進行、人口減少など「これまでに経験したことのない難しい課題が次々と現れ、試練の連続だった」と平成の約30年を振り返る。本では、それぞれの課題に対する政治家や官僚の動きが緻密に再現される。経企庁や国土交通省の要職を歴任、霞が関の力学を知るエコノミストならではの分析が随所に光る。

課題への政策的対応は「実験的・試行錯誤的なものにならざるをえず、必ずしもうまくいかなかった」と指摘する。平成期に浮上した課題の多くは令和の時代に積み残された。だからこそ経済政策の形成過程や効果をマクロ経済データに基づいて「検証したうえで自分の考えを率直に述べ、今後の参考にしてもらえる作品になるように心がけた」という。

気にかかる社会保障改革の遅れ

積み残された課題のうち、小峰氏が特に心配しているのは社会保障改革の遅れだ。高齢化が進むなかで、日本では社会保障費は自然と増加していく。小峰氏を含む経済の専門家は「歳出削減による社会保障の見直しは必要」と考えているが、大部分の国民は社会保障の充実を求めている。この「巨大な認識の差がこれからの日本の経済社会を悩ませることになるだろう」と予想する。

社会保障費の膨張を防ぐ仕組みは2000年代半ばの小泉政権時代に一度は導入された。だが格差問題への批判が高まるなかで撤回され、政権が掲げた財政改革は行き詰まった。格差問題への反感は民主党への政権交代の遠因にもなった。本書では、社会保障費の抑制が中断に追い込まれるまでの政府の対応と世論の動きを追い、政策当局者とビジネスパーソンに次代へのヒントを託した。

まず政策当局者に対しては、説明の仕方にどんな注意が必要で、どう民意と向き合えばよいのか。勤労者には「消費税に反対するのは自分で自分の首を締めるのと同じ。消費税を嫌がっているうちに社会保険料負担が急上昇するという笑えないことになっている」と警鐘を鳴らす。

日本では税のうち消費税に対する関心が突出して高く、消費増税は政権の鬼門になりがちだ。一方で社会保険料の引き上げは国会決議なしで決まる。社会保障の見直しを先送りしている間に、給与から天引きされる社会保険料の増額で財源の不足分が賄われている。賃上げの恩恵より健康保険料や介護保険料の支払い増が大きく、手取り収入が増えない人は多い。「会社が代わりに申告・納税する便利な仕組みが原因で、サラリーマンが社会保障改革に無関心になっているのなら、自分で税を納める制度に切り替えれば考えも変わるかもしれない」という。

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最終更新:6/19(水) 6:20
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