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遺伝子にとってのウェルビーイング:WHO IS WELL-BEING FOR〈1〉

6/19(水) 18:10配信

WIRED.jp

ウェルビーイング──それは果たして人間だけのものなのか。巷で語られる人間中心的なウェルビーイングから思考を解放し、その概念を広げてウェルビーイングとは何かを考えてみよう。その考えを経ることで見えてくる、人間にとってのウェルビーイングがあるはずだ。まずは、遺伝子にとってのウェルビーイングをゲノム解析の第一人者、ジーンクエストの高橋祥子に訊いた。

主観的ウェルビーイングと客観的ウェルビーイング

ウェルビーイングは“ゆらぎ”のなかに

遺伝子にとってウェルビーイングとはどういう状態を指すのか、ということは、実は明確です。そのうえで、「ウェルビーイングという概念が、どの観測系によって捉えられているのか」という問いを考えなければいけないと思います。

まず、前提を確認しましょう。遺伝子にとってのウェルビーイングとは、生物学者の福岡伸一さんが言う生物における「動的平衡」のように、もとから“ゆらぎ”をもっている遺伝子の仕組みが、変化する外界の環境に対して適応していく状態、ということです。そのことによって、個体が生き残って、種として繁栄していくという生命のミッションを達成していきます。

具体的に言うと、どういうことでしょうか。例えば、生命から生命へ受け継がれていく遺伝子という情報は、往々にしてコピーミスが起きます。実はわたしたち人間も、毎日大量のDNAのコピーミスを繰り返していきます。

そのコピーミスを修復することによって個体が生存していくこともあれば、コピーミスがポジティヴな要因となって個体が生き延び、種の繁栄につながっていくこともあります。遺伝子の仕組みが“ゆらぎ”をもつことで、動きながら、変わりゆく環境と平衡状態を保っていく。

つまりこのような状態が、種としての繁栄のための遺伝子レヴェルでの「動的平衡」ということであり、遺伝子におけるウェルビーイングです。こうしたウェルビーイングは、人間であろうと動植物であろうと同様です。

時間軸を踏まえたメタ認知

一方で、人間の主観的な観測系も、遺伝子がかたちづくっています。いわば、遺伝子の意志が人間を導いていると思います。例えば、仲のよい誰かと一緒にリラックスした状態でごはんを食べるとおいしく感じる、という主観的な観測があるとします。

警戒している状態よりは安心している状態での集団的な食事のほうがおいしく感じるのは、そのほうが生存の可能性が高くなるから神経伝達物質が分泌されているわけで、主観的な心地よさの追求が実は遺伝子レヴェルで本能的に決定づけられていると言っていい。世間でよく言われるウェルビーイングという考えの多くは、「心地よいと主観的に感じる状態」をいかに設計するかという主観的な観察系の立場に立っています。しかし実はそれが、遺伝子にとってのウェルビーイングで考えられることも多いのです。

ではウェルビーイングが全部本能的なものなのかというと、それだけではありません。刹那的な快楽──いわゆる「報酬系」と呼ばれるような、生物学的な意味での“生体反応”だけに必ずしも重きは置かれず、「時間軸」が大いに関係するものです。例えば、眠いからずっと寝ていたいという瞬間の生物的欲求があったとしても、より長期の時間軸で考えることで、いまは眠っている場合ではないという判断をもつこともできます。時間軸を踏まえたメタ認知によって、刹那の生物的欲求だけではないことが心地よさになります。

例えば、人間にとって運動は大事なエネルギーを消費する、短期的目線では不利な行為ですが、わたしたちは頭で考えて未来における健康などの快適さのために現在運動することを選択できます。このようなことも、未来への時間軸を踏まえたメタ認知が起こす行動であり、それは人間の発達した大脳皮質による判断です。

人間には、主観的で一時的な生体反応による快適さに抗う能力も備わっています。あるいはSDGsといった未来に向けた社会問題の解決を長期的に考えることができ、それに向かっている現在がよい状態だと捉えることができるのも、こうしたメタ認知の能力によるものです。よい未来に向けての一時的な生体反応を超えた時間軸の客観的認識が、人間にとってのウェルビーイングにより深みをもたらしているのではないでしょうか。

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最終更新:6/19(水) 18:10
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