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元・横綱武蔵丸が「部屋のご飯」にこだわる理由

6/19(水) 5:40配信

東洋経済オンライン

『家族無計画』『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さん。この連載で綴るのは、紫原さんが実際に見てきたさまざまな家族の風景と、その記憶の中にある食べ物について。
今回は番外編。第67代横綱・武蔵丸(現・武蔵川親方)が率いる武蔵川部屋における「家族の風景」について取り上げます。

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■相撲部屋という「大家族」の生活

 江戸川区は閑静な住宅街の一角にその建物はあった。一見すると大きめの民家に見えなくもないが、玄関扉の上部に掲げられた一枚板には、しっかりとこう刻まれている。

 「武蔵川部屋」

 第67代横綱・武蔵丸(現・武蔵川親方)が再興した相撲部屋、武蔵川部屋。家族の風景を追うこの連載で、相撲部屋という大家族の生活を見てみたいと思い、縁あって見学することになったのだ。

 稽古場へと続く引き戸を開けると、まわし姿の大きな力士たち、実に20人余りが、それぞれの稽古に励んでいた。数十キロはあろうかという巨大な石を抱え、何十回、何百回とスクワットに励む者。稽古場のてっぽう柱に、黙々と張り手を続ける者。

 中央の土俵上では、いわゆるぶつかり稽古が行われている。受け手となる兄弟子は土俵の中ほどに立つ。そこに土俵際から、弟弟子が勢いよくぶつかっていく。バチンっという大きな音を立てて、2人の力士が組み合う。

 激しく押し合うこともあれば、膠着状態となることもある。張り詰めた緊張感の中で、はぁ、はぁ、と2人の力士の荒い息遣いだけが響く。そうして、弟弟子がわずかに気を緩めた瞬間、大きくて重い体が、土俵上にごろっと転がる。

 「ほら、すぐに起きろ、稽古が終わるぞ」

 部屋付きの雷(いかずち)親方から低い声で檄が飛ぶと、倒された力士はさながら自分を鼓舞するかのような太い声を発しながら起き上がり、ひとしきり土俵の周囲をすり足で歩く。そうして再び、強い兄弟子に、精一杯ぶつかっていく。

 武蔵川親方はそんな稽古の様子を、部屋の隅に置かれた椅子に腰掛け、終始静かに見守っていた。現役時代より随分減量したというが、山をも彷彿とさせるその存在感は今なお、圧倒的だ。

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最終更新:6/19(水) 8:10
東洋経済オンライン

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